免疫が低下している患者に深刻な問題をもたらす真菌感染
順天堂大学は1月16日、真菌成分が炎症を悪化させるメカニズムの一端を解明する研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科・アトピー疾患研究センターの伊沢久未助教、北浦次郎先任准教授ら、および東京大学医科学研究所の高橋まり子博士研究員、国立感染症研究所の金城雄樹室長らの共同研究グループによるもの。研究成果は「Science Signaling」電子版にて公開されている。
画像はリリースより
カンジタ症など真菌によって引き起こされる感染症や炎症性疾患は、ステロイドや抗がん剤などの使用により免疫が低下している患者にとって、生命に関わる重要な問題となっている。真菌感染により好中球が集積する早期の炎症は真菌の排除に役立つが、真菌感染が持続して炎症が悪化すると肺・皮膚・関節などの組織が障害される。現在は、抗真菌薬が治療の中心に用いられているが、真菌感染による炎症悪化のメカニズムが不明なため、有効な治療法は確立されていない。
NOが局所へ好中球を集積させ炎症が悪化
研究グループは、これまでの研究で、免疫受容体「CD300b」を欠損させたマウスに、真菌の細胞壁成分であるザイモサンを投与すると、局所の炎症が弱まることを見出していた。これを踏まえ、CD300bはザイモサンに含まれる何らかの脂質を認識して、真菌感染による慢性炎症を促進するのではないかと考え、その働きについて詳しく調べた。
まず、マウスの背部皮下に作製した皮下空気嚢にザイモサンを注射する実験を行った。その結果、野生型マウスの皮下空気嚢には感染防御に作用するNO(一酸化窒素)の産生とともに好中球が集積するのに対し、CD300bを欠損させたマウスでは好中球の集積が著しく減り、NOの産生量も低下することが判明。さらに、ザイモサンに含まれる脂質をスクリーニングしたところ、CD300bが真菌の脂質成分フィトスフィンゴシンを認識していることがわかった。
次に、NO産生を阻害する薬剤や炎症性樹状細胞を除去する薬剤を投与。すると、野生型マウスの好中球の集積は、CD300b欠損マウスの場合と同程度に減ることが明らかになった。同様に、マウスの関節腔にザイモサンを投与した場合にも炎症が誘導された。
今回の研究で、真菌の脂質成分が持続的に過剰な好中球集積を誘導すると、さまざまな炎症細胞の浸潤と活性化が起こり、その結果、組織障害をもたらし、炎症が悪化することが判明した。研究グループは「今後、真菌の脂質成分を認識する免疫受容体CD300bに着目して、炎症を制御する治療法の開発を目指したいと考えている」と、述べている。
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