背景因子や分子病態に最適化された治療は未確立
東京医科歯科大学は1月11日、同大学および国際共同プロジェクトThe Cancer Genome Atlas(TCGA)Networkのオミックスデータを利用して、肝細胞がんが分子生物学的および免疫学的に大きく3つのサブタイプに分類されることを新たに発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 分子腫瘍医学分野の田中真二教授、島田周助教、茂櫛薫非常勤講師、秋山好光講師の研究グループが、肝胆膵外科の田邉稔教授、米ブラウン大学肝臓研究センターのJack R Wands教授と共同で行ったもの。本研究成果は、国際科学誌Lancet誌とCell誌の共同オープンアクセスジャーナル「EBioMedicine」のオンライン版に、2018年12月29日付で発表された。
画像はリリースより
肝細胞がんは再発が多く、がん死亡原因で見ると、世界2位、日本でも5位となっている。肝細胞がんはB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎などさまざまな背景因子により発症すると知られる。こうした背景因子や分子病態に基づいた治療法は未だ確立されていない。肝細胞がんを分子病態の観点から分類した研究もあるが、遺伝子発現データのみに基づいたものであり、不十分だった。
新たなサブタイプ分類を確立、肝がんゲノム医療の基盤に
そこで研究グループは、東京医科歯科大学で外科的に切除された肝細胞がん183検体の遺伝子発現データについて、コンピュータを用いて教師なし階層的クラスタリング解析を行い、そのうち33検体について遺伝子変異データとDNAメチル化データを統合的に解析した。その結果、肝細胞がんは、MS1:TP53遺伝子変異があり、増殖性・幹細胞性が強い予後不良サブタイプ、MS2:CTNNB1遺伝子変異があり、DNAメチル化レベルが高いサブタイプ、MS3:肥満や糖尿病などのメタボリックシンドロームと関連が強いサブタイプ、の3サブタイプに分類された(TMDU研究)。TCGAの肝細胞がん373検体についても同様に解析をしたところ、同じく3つのサブタイプに分類された。さらに、種々の解析により、MS1サブタイプでは染色体不安定性が強くなっていること、MS2サブタイプはがん免疫が抑制されていること、MS3サブタイプには予後良好サブタイプ(MS3i:炎症反応が強く、免疫チェックポイントに関与するPD-1/PD-L1経路が活性化している)が存在していることもわかった(TCGA研究)。
研究グループは、再発とサブタイプの関連性についても解析を行った。肝細胞がんの再発は、肝内転移型(IM)と多中心性再発型(MC)の2形式がある。今回の検体をこの形式別に見ると、従来知られている通り、IMはその遺伝子変異パターンとDNAメチル化パターンが初発・再発間でよく似ているのに対して、MCでは遺伝子変異パターンは全く異なるものの、DNAメチル化パターンは似ていた。一方で、初発・再発肝細胞がんを、新たなサブタイプで分類すると、当初予想されていた再発形式IM・MCとは無関係であり、むしろ再発時のサブタイプは初発時のサブタイプに依存することが判明した。
これらの研究結果は、遺伝子解析により分類された分子生物学的および免疫学的特徴に基づいて分子標的治療や免疫治療を最適化する、いわゆる次世代の幹細胞がんゲノム医療の基盤になると考えられる。
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