新たな治療標的として注目されるSmc5/6の分解によるウイルス複製促進機構
東京大学医学部附属病院は1月11日、B型肝炎ウイルスの治療薬候補「ペボネジスタット」を新たに同定したと発表した。この研究は、同院消化器内科の關場一磨大学院生、大塚基之講師、小池和彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国肝臓病学会誌「Hepatology」の掲載に先立ち、オンライン版に公開されている。
画像はリリースより
B型肝炎ウイルス感染者は世界中で20億人、そのうち持続感染者は2.57億人、さらに年間90万人がB型肝炎ウイルス関連疾患で死亡している。B型肝炎の克服は日本国内のみならず、世界的な重要課題となっている。
B型肝炎の長期予後改善として、ウイルスタンパクであるHBs抗原の陰性化「Functional cure」が治療目標として掲げられているが、既存のB型肝炎治療薬では達成困難であり、新薬の登場が切望されている。そのような中で、ウイルスタンパクHBxによる、宿主ユビキチン・プロテアソーム系を介した宿主タンパクSmc5/6の分解がもたらすウイルスの複製促進機構が明らかとなり、新たな治療標的として注目されている。
核酸アナログ製剤では抑えられないウイルスRNAの産生を強力に抑制
研究グループは、Smc5/6タンパクが宿主ユビキチン・プロテアソーム系によって分解されること、また、このユビキチン化にはネディレーションによるユビキチン化酵素の活性化が必要なことに注目し、ネディレーション阻害薬であるペボネジスタット(Pevonedistat)がB型肝炎の新規治療薬となり得ると仮定。HBx発現細胞にペボネジスタットを投与してSmc5/6タンパクの発現回復効果を検証したところ、その有意な効果を確認した。
次に、ミニサークルDNA技術を用いてウイルスのcccDNAを模倣するDNA分子を作製。それに対するペボネジスタットの効果を検証したところ、ウイルスRNA転写が有意に抑制された。また、終止コドンを挿入してHBxタンパクの発現を欠損させた変異型の擬似cccDNAでは、このペボネジスタットによるウイルスRNA転写抑制効果は失われることから、ペボネジスタットの効果はHBxタンパクに依存することが確認された。さらに、初代ヒト肝細胞を用いたB型肝炎ウイルス感染系において、ペボネジスタットはSmc5タンパクの発現回復をもたらし、ウイルスRNAをはじめ、ウイルスタンパク、ウイルスDNA、cccDNA量を有意に低下させることが確認された。以上のことから、ペボネジスタットは、ネディレーション阻害を通したSmc5/6タンパクの発現回復という作用機序を持つ新規のB型肝炎治療薬となる可能性が示された。
これらの結果は、ペボネジスタットが既存のB型肝炎治療薬では達成困難な「Functional cure」(HBs抗原陰性化)を実現する可能性を有していることを示している。また、悪性腫瘍の治療現場では、治療に伴うB型肝炎ウイルス再活性化が大きな問題となっており、ペボネジスタットはそれらの問題を解決し得る悪性腫瘍治療の選択肢となる可能性が、作用機序から推定できるという。
研究グループは、「今後は、これらのデータをもとに、動物モデルなどでの検討を加えて、新たな作用機序を持つB型肝炎治療薬候補としてヒトへの応用の可能性を探っていきたい」と、述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース