血管内皮細胞が、細胞死から逃れる方法を研究
大阪大学は1月11日、血管の内腔を覆う血管内皮細胞が、腸内細菌や炎症によって分泌が誘導される炎症性サイトカインから自分自身を守り、「細胞死」を防ぐ仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大微生物病研究所の内藤尚道助教、高倉伸幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Developmental Cell」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
血管は、酸素や栄養分を体の隅々に届けるだけでなく、組織に損傷や炎症などの異常が生じた際に、その部位に炎症細胞を動員することにより、組織の修復を促進する。この過程で、血管の内腔を覆う血管内皮細胞は、炎症性サイトカインのひとつであるTNFαにより活性化し、炎症細胞の血管外への遊走を助け、正常に炎症反応を惹起する役割を担っている。一方、このTNFαは多彩な機能を持つ因子として知られており、細胞の種類によっては、「細胞死」を誘導することが報告されていた。しかし、血管内皮細胞がどのようにしてTNFαが誘導する「細胞死」から逃れているのかについては明らかにされていなかった。
研究グループはこれまで、全身の血管内皮細胞で高発現しているタンパク質である「TAK1」分子に着目。血管内皮細胞がどのように細胞死を逃れ、血管の機能を保っているのかという点を明らかにするための研究を進めてきていた。
TNFαに引き起こされる細胞死を阻止し、細胞を守るTAK1
研究グループは、成体の血管の内腔を覆う血管内皮細胞におけるTAK1の機能解析を行うため、全身の血管内皮細胞でタモキシフェンを投与したときにのみTAK1遺伝子を欠損させることができるモデルマウス(TAK1ECKOマウス)を作製し、解析を行った。
その結果、TAK1遺伝子を欠損させた全てのマウスが、タモキシフェン投与後11日で著明な貧血を伴い死亡した。これは、血管内皮細胞がアポトーシスを起こして腸と肝臓の血管が崩壊し、出血したことが原因であったという。成体の血管内皮細胞の1つの遺伝子を欠損するだけで、急激に個体の死を引き起こすという現象は、これまでほとんど知られていなかった。
腸と肝臓では常在する腸内細菌が免疫細胞を刺激して、炎症性サイトカインTNFαの分泌を促しているが、血管内皮細胞のTAK1がないと、このTNFαにより腸の血管内皮細胞が細胞死を起こし、血管が崩壊して出血した。それ以外の部位では、TAK1がなくても通常は異常を認めなかったものの、肺炎や筋炎などで炎症が生じてTNFαが分泌されると、腸や肝臓と同様に、血管の崩壊と出血が起こった。これらの結果から、血管内皮細胞においてTAK1がTNFαにより引き起こされる細胞死を阻止し、細胞を守る機能をもつことが明らかとなった。この「血管防御機構」は、炎症性サイトカインから腸と肝臓の血管を守る機構でもあり、肺炎や筋炎などの炎症が生じた際に、血管を壊さずに正常に炎症反応を引き起こす仕組みであることが判明した。
腫瘍は、栄養を運ぶための腫瘍血管を形成して増大する。しかし、今回血管防御機構が明らかになったことで、新たながん治療法が開発される可能性がある。また将来的には、老化による臓器機能低下の予防や、臓器の恒常性維持と修復機構の解明に結び付く可能性もあるという。
▼関連リンク
・大阪大学 研究情報