北海道内の多施設研究で判明
北海道内の医療機関で免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ」の廃棄量の実態を調べたところ、昨年3月末の薬価ベースで約8017万円に上ることが、旭川医科大学病院薬剤部の福土将秀氏らの研究で明らかになった。調整当日に単回使用バイアルの複数回使用(DVO)を実施した施設では、約1187万円の薬剤費削減につながっていることも分かった。現在、1回240mgの固定用量が承認され、ニボルマブの残薬問題は解消されたと考えられているが、海外ではイピリムマブとの併用療法で体重換算の投与量が設定されていることから、「無菌性を担保する調製方法を取り入れることで開封後の使用期限を延長し、DVO実施によるバイアル内残薬の有効活用が期待される」としている。
抗PD-1抗体「ニボルマブ」をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬の登場は、癌の免疫療法を開花させた一方、高額な薬剤費が大きな社会問題となってきた。こうした中、国民医療費の高騰を防ぐため、2017年2月には緊急薬価改定が実施され、ニボルマブの100mgバイアルの薬価が50%引き下げられた。
その後、昨年4月の薬価改定、11月の薬価収載時に用法用量変化再算定が適用され、ニボルマブの薬価は約4年前の72万9849円から17万3768円と大幅に引き下げられたが、適応拡大が急速に進みつつある高額なニボルマブの適正使用が大きな課題となっていた。
こうした中、福土氏らの研究グループは、残薬を有効活用して薬剤費削減が期待されるDVO導入を視野に、北海道内のニボルマブの廃棄実態を調査すると共に、バイアル内の安定性について検討を行った。
参加協力が得られた北海道内の17施設で17年10月から昨年3月までの6カ月間に各施設で調製されたニボルマブを回収し、バイアル内の残液の重量を過量充填分を含めて計測。ニボルマブの廃棄量として算出した。その結果、2045調製分のバイアルが回収され、100mgと20mgバイアル内の残液の総量は、それぞれ86.3バイアル分、648.4バイアル分に相当し、昨年3月末時点の薬価ベースでニボルマブの廃棄額は約8017万円、廃棄率は約6.1%に上ることが判明した。また調製当日にDVOを実施した施設では、158本の20mgバイアルが未使用となり、約1187万円の削減につながっていた。
ニボルマブを調製対象患者の癌種は、肺癌が62.4%と最も多く、次いで腎細胞癌18.4%、胃癌13.7%の順で、投与量は中央値で175mgだった。
さらに、ニボルマブの残液を解消するため、DVO導入を視野にバイアル内のニボルマブの安定性について検討を行った。調製後のバイアル内に残ったニボルマブの蛋白質濃度とPD-1に対する結合活性の経時的変化を評価したところ、室温と4℃いずれの保存条件下でも開封後28日目まで有意な変化は見られず、長期的に安定性を保っていると考えられた。
現在、ニボルマブは日本でも1回240mgの固定用量が昨年8月に承認され、高額な残薬問題は解消されたと言える。ただ、福土氏らは、今回の調査結果でニボルマブ投与量の中央値が175mgであったことを踏まえ、「1回240mgの固定用量が日本人にはオーバードーズになることが懸念される」と指摘。
また、海外ではイピリムマブとの併用療法で体重換算の投与量が設定されていることから、「無菌性を担保する調製方法を取り入れることで開封後の使用期限を延長し、調整当日に限らないDVO実施によるバイアル内残薬の有効活用が期待される」としている。