脳内ヒスタミンの働きや記憶のメカニズムの解明へ
北海道大学は1月9日、脳内のヒスタミン神経を活性化する薬が、記憶痕跡を再活性化させることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の野村洋講師、京都大学大学院医学研究科の高橋英彦准教授、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループによるもの。研究成果は1月8日、精神科の専門誌「Biological Psychiatry」にオンライン掲載された。
物事を覚えてから長時間経過すると、記憶は思い出せなくなってくるものの、ふとした瞬間に思い出せることがあるように、一見忘れたように思える記憶であっても、その痕跡は脳内に残っていると考えられる。しかし忘れた記憶を自由に回復させる方法は存在しない。一方で、アレルギー関連物質として働くヒスタミンは脳内にも存在し、睡眠や食欲と共に記憶にも関わると考えられ、ヒスタミンを抑える抗ヒスタミン薬は記憶成績を低下させると知られている。
そこで研究グループは今回、ヒスタミンに着目。マウスとヒトに記憶課題を課し、ヒスタミン神経を活性化する薬が記憶成績に与える影響を解析することにより、脳内ヒスタミン神経を活性化することで記憶を思い出す力を向上させ、忘れた記憶を回復させられるかを検証した。
認知機能障害の治療薬開発の一助になると期待
まずマウスにおもちゃを見せて、おもちゃの形を学習させた。マウスは初めて見たものの匂いを嗅ぎに行く習性があるため、匂いを嗅ぎに行った場合、覚えていないと判断した。結果、通常のマウスは1週間経過するとおもちゃを思い出せなかったが、ヒスタミン神経系を賦活化する薬を投与したマウスは、統計的に有意におもちゃの記憶を思い出した。次に、このデータをもとに、同種の薬物が、ヒトの記憶成績を向上させる効果があるかを38名の参加者を対象として調査した。あらかじめ参加者にはたくさんの写真を見せておき、記憶テストでは再びたくさんの写真を見せて、その中から覚えている写真を選んでもらった。その結果、ヒスタミン神経活性化薬ベタヒスチンを飲んだ群で、統計的に有意に正解率が上昇した。また、特に、もともと記憶成績が悪い参加者ほど薬の効果が大きいことがわかった。
画像はリリースより
研究グループは、このメカニズムには、嗅周皮質と呼ばれる脳領域の活動上昇が関わっていることを示し、ヒスタミンが神経回路にノイズを加えることで記憶を回復させると考察している。
これらの研究成果は、脳内ヒスタミンの働きやヒスタミン活性化薬の新しい作用だけでなく、柔軟に働く記憶のメカニズムの解明に貢献するもの。さらにアルツハイマー病などの認知機能障害の治療薬開発の一助となることが期待される。
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・北海道大学 プレスリリース