■診療報酬以上の経済効果確認
がん領域の認定資格を持つ薬剤師が実施する外来がん患者への介入効果は、認定を持たない薬剤師に比べて高いことが、静岡県立総合病院薬剤部の嘉屋道裕氏らが実施した研究で明らかになった。同院を受診した、延べ2200人以上の外来がん患者を対象に介入内容を解析したところ、医師に処方提案や疑義照会を実施した割合や、症状改善の割合は、認定を有する薬剤師の方が高かった。副作用発現の未然防止や重篤化回避による医療経済効果は1件当たり6355円に達し、認定を有する薬剤師の関与時に算定可能な「がん患者指導管理料」200点を大幅に上回るため、嘉屋氏は「診療報酬の改定が必要ではないか」と提案している。
薬剤師が算定可能な「がん患者指導管理料」は2014年の診療報酬改定で新設された。日本病院薬剤師会のがん薬物療法認定薬剤師、日本臨床腫瘍薬学会の外来がん治療認定薬剤師、日本医療薬学会のがん専門薬剤師が実施した場合に同管理料を算定できる。当時、認定資格の価値が診療報酬でも評価されたとして注目を集めた。その点数に見合うどころか、それ以上の価値のある業務を行っていることが、今回の解析で裏づけられた格好だ。
同院では日々、がん領域の認定資格を持つ薬剤師とそうでない薬剤師が1人ずつ計2人体制で、外来化学療法センターで抗がん剤の点滴を受ける患者を対象に、医師の診察後に面談を実施。服薬指導に加えて、聴き取った内容などをもとに、医師に疑義照会や処方変更の提案を行っている。
嘉屋氏らは、16年1月から同年12月までの間に受診した、延べ2200人以上の外来がん患者に薬剤師が介入した内容を後ろ向きに解析。認定資格を持つ薬剤師と、認定資格を持たない薬剤師の介入内容を比較した。
その結果、医師への提案割合は、認定資格を持たない薬剤師では12.6%だったが、認定資格を持つ薬剤師では22.6%に達し、有意に高かった。症状が改善した割合も、認定資格を持たない薬剤師が介入した患者では72.1%だったのに対し、認定資格を持つ薬剤師が介入した患者では89.4%に達し、有意に高かった。
医師への提案内容のレベルを5段階で分類したところ、認定資格を持つ薬剤師の方が、高度なレベルの提案を行う割合が高かった。高度なレベルの提案に対する医師の受諾率は、そうでない提案に比べて低いこともあって、全提案の受諾率については両群に有意差はなかった。
医療経済効果は、副作用発現の未然防止や重篤化回避による医療費抑制額として割り出した。処方変更を提案し医師が受諾した事例のうち、受諾されなければその2.6%に重篤な有害事象が発生する可能性があった。医薬品副作用被害救済制度の平均支給額から、重篤な有害事象発生時の医療費は1件当たり約169万円として計算。これらのデータをもとに、認定資格を持つ薬剤師が関わった事例1件当たりの医療経済効果を、6355円と算出した。
現在、認定資格を持つ薬剤師が指導した場合「がん患者指導管理料」200点を算定できるが、今回の解析結果から嘉屋氏は「活動に見合った報酬とは言いがたい」として、診療報酬の改定を提案している。
一方、認定資格を持たない薬剤師が関わった事例の医療経済効果も1件当たり3604円に達するため「診療報酬の新設などが必要ではないか」と言及。「認定資格を持たない薬剤師も適切な治療支援に不可欠。活躍の場を増やすような環境整備が必要」としている。