欧米人とは異なる遺伝的要因の存在が疑われていた
国立循環器病研究センターは1月8日、日本人の脳梗塞の強力な感受性遺伝子を明らかにしたと発表した。この研究は、国循脳神経内科の猪原匡史部長、岡崎周平医長(現・大阪大学神経内科)を中心とする国循の研究グループが、京都大学環境衛生学の小泉昭夫名誉教授、理化学研究所生命医科学研究センター統計解析研究チームの鎌谷洋一郎チームリーダー(京都大学大学院医学研究科 京都大学・マギル大学ゲノム医学国際連携専攻准教授兼務)、久保充明元副センター長、京都大学大学院医学研究科脳神経外科の森本貴昭医師、九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、秦淳准教授、同大学院医学研究院病態機能内科学(第二内科)の吾郷哲朗准教授らと共同で行ったもの。研究成果は同日、米国心臓病学会の専門誌「Circulation」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
国内では年間11万人が脳卒中で死亡している。その7~8割を占める脳梗塞は、脳の比較的太い血管の動脈硬化が主因となる「アテローム血栓性脳梗塞」、脳の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」、心臓にできた血栓が心臓から出て脳の大血管を詰まらせる「心原性脳塞栓」などに分類される。一般にアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞には生活習慣病(高血圧、糖尿病など)が、心原性脳塞栓には不整脈などが関係すると考えられている。一方で、欧米諸国と比較すると、日本での脳梗塞の発症頻度が特に高いことが知られており、日本人に欧米人とは異なる遺伝的要因の存在が疑われていた。
もやもや病で知られる多型が、脳梗塞の感受性遺伝子だった
猪原部長らの研究チームは、もやもや病の発症に関係すると報告されているRNF213 p.R4810K多型(RNF213という遺伝子がコードするタンパク質の4810番目のアルギニンがリジンに変わる多型)に着目。これまでの研究で、RNF213遺伝子改変動物が脳梗塞を起こしやすいことを先に明らかにしていたためだ。さらにこの多型は、収縮期血圧の上昇や心筋梗塞とも関係があるなど、これまで生活習慣病が原因と考えられていた、孤発性(遺伝的要素は関係なく発症する)循環器病の一部の感受性遺伝子であることも既に明らかになっていた。
今回の研究で日本人4万6,958名(脳梗塞1万7,752名、対照2万9,206名)を対象に調べたところ、この多型を持つ日本人は、アテローム血栓性脳梗塞を発症するリスクが3.58倍高いことが判明した(オッズ比3.58)。また、虚血性脳梗塞全体の発症リスクは1.91倍高かった。以上の結果から、この多型は稀少疾患のもやもや病に限らず、頻度の高い病気であるアテローム血栓性脳梗塞の強力な感受性遺伝子だとわかった。さらに、この多型保有者は、虚血性脳梗塞全体の発症リスクが男性よりも女性で高く(オッズ比:男性1.50、女性2.69)、また、非保有者より平均発症年齢が4歳以上若いことも明らかとなった。一方、INTERSTROKE研究に登録された欧州人(脳梗塞826名、対照863名)には、この多型は観察されず、日本人を含む東アジア固有の脳梗塞亜型で、脳梗塞の人種差を説明する新知見であると考えられた。
この多型は、日本の人口の2~3%(国内300万人前後)が保有していると考えられている。循環器疾患は、大部分が孤発性と考えられているが、今回の研究成果で、そうした循環器疾患の重要な感受性遺伝子が明らかとなったと言える。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース