術後の予後を大きく左右する術前化学療法による治療効果
大阪大学は12月26日、食道がんの標準治療である術前化学療法前後にFDG-PET検査を行い、Metabolic Tumor Volume(MTV)と呼ばれるがんの生物学的活性を加味した腫瘍体積の変化を測定することで、治療効果や術後の予後予測がより正確に行えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の牧野知紀助教、土岐祐一郎教授(消化器外科学)、同大医学部附属病院の巽光朗講師(放射線部)、同大大学院医学系研究科の畑澤順教授(核医学)らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Annals of Surgery」に掲載されている。
画像はリリースより
食道がんは、日本で約2万2,000人が罹患しているがんで、全体の5年生存率は約30~40%といわれる。進行した食道がんに対する標準治療としては、まず化学療法を行い、それから手術を行う。この術前化学療法による治療効果が、術後の予後を大きく左右することがわかっている。
化学療法による治療効果の判定は、手術で切除した病理標本における腫瘍の減少割合で判断できる。しかし、個別化治療のためには術前に画像診断によって治療効果を推測することが必要だが、最適な画像による判定法はいまだ確立されていなかった。
MTV減少率が大きい群で予後生存率が明らかによいと判明
今回、研究グループは、食道がん術前化学療法前後のPET検査でMTVという指標を用いた、がんの体積変化を解析することで、化学療法を行った食道がん組織での治療効果および手術後の予後を、より正確に予測できることを証明した。まず、遠隔転移のない胸部食道がんで、術前化学療法後に根治切除手術を施行した102例を対象に、化学療法前後でPET検査を施行。従来のCT検査での腫瘍測定に加えて、PET検査の一般的な指標として知られるSUVmaxと、新たな指標として用いているMTVの両方の値をソフトウェアにより測定した。
解析の結果、化学療法前後でMTVの値(中央値)は22.6から2.8と明らかに減少。化学療法によるがん体積の減少が確認された。このMTV減少率と手術後の予後との関係をみると、MTVによるがん減少率60%を境にして予後が最も大きく分かれることが判明。これを独自のカットオフ値として設定した。その結果、MTV減少率が大きいケース(がん体積が一定以上に減少した群)は、小さいケース(がん体積があまり減少しなかった群)と比較して、予後生存率が明らかによいことが判明。一方、SUVmaxを用いた解析では、予後生存率の違いがあまり明らかになっていないことから、MTV減少率60%の指標を用いることは、治療効果予測に最も優れていることが示されたとしている。
さらに、性別や年齢、がんの進行度やCT検査、MTV、SUVmaxによる効果判定などの因子の中で、どの因子が予後をより正確に予測するかを、多変量解析で調べたところ、調べた因子の中では、MTV減少率が唯一予後を正確に予測しうる重要な因子であることが示唆された。一方で、従来のCTによる腫瘍測定やSUVmax減少率については、重要な因子とはならなかったという。今回の成果について、研究グループは、「食道がん術前化学療法前後のPET検査でMTV変化を測定することで正確な予後の予測が実現できた。今後はこのMTV変化に応じたオーダーメイド治療が可能となり、それが最終的に食道がん治療成績の向上につながることが期待される」と述べている。
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・大阪大学 研究成果