装置が大きく複雑で長期使用が困難だった従来のECMO
国立循環器病研究センターは12月25日、世界最小・最軽量の次世代型心肺補助(ECMO)システム装置の開発に成功したと発表した。この研究は、国循人工臓器部の巽英介部長、片桐伸将特任研究員らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
ECMOは人工呼吸器や昇圧剤使用など、従来の治療法では救命困難な重症呼吸・循環不全の症例に用いられている。近年では救命救急領域や集中治療領域にまで広がりを見せ、その有用性は高まりつつある。しかし、現在汎用されている装置は大きく複雑なため、緊急対応には不向きで、重症患者の救急搬送時など、院外での使用も難しい状況にあった。
抗血栓性や耐久性も不十分なため、血栓塞栓症や出血合併症のリスクが高く、長期使用も困難とされてきたが、実際の臨床現場では、救命のためにやむを得ず綿密な管理を行いながら、薬機法上承認されている使用期間の6時間を超えて使用しているというのが現状だ。そのため、院内・院外を問わず、装着が容易で安全に長期間使用可能なECMOシステムの開発が望まれていた。
高い緊急対応性・携帯性・抗血栓性・耐久性を実現
国循人工臓器部では1986年から、抗血栓性と長期耐久性に優れたECMOシステムの開発を開始。今回開発された装置では、これまで人工臓器部が実用化してきたさまざまな先端技術を取り入れることで、高い緊急対応性・携帯性・抗血栓性・耐久性を実現したという。
同装置は世界最小・最軽量(29×20×26cm、6.6kg)で、容易に持ち運び可能。緊急対応性を実現するために、専用回路ユニットを多機能集積型の超小型駆動装置に装填して即座に使用できるシステムとなっており、4分以内の迅速な起動も可能となった。また、電源や酸素供給のない場所でも、内臓バッテリと脱着型酸素ボンベユニットにより、1時間以上連続で使用することができる。このため、救急車での搬送中など、院外の緊急装着にも対応できる。さらに、人工臓器部が過去に開発した優れた抗血栓技術が用いられており、抗凝固療法を最小限に抑えられるため、血栓性および出血性合併症を予防し、安全性を高めることが可能だ。長期耐久性についても、同装置を用いた長期動物実験で装着後2週間(4例)および4週間(3例)の連続心肺補助を行った結果、全例において予定期間を問題なく完遂することができたという。
同装置の開発プロセスはほぼ完了し、現在は臨床応用・実用化に向け国循を中心とした多施設による医師主導治験を2019年度に実施するための準備を進めている。数週間の長期使用や院外装着・搬送時使用など、これまで薬機法の承認がなかった使用方法も治験が完了後に認められる予定としている。
研究グループは「今後実用化が進められることにより、重症呼吸不全症例における自己肺の回復促進や血栓症合併症などの治療、不可逆的症例である肺及び心肺移植へのつなぎ(ブリッジ)としての使用など、適用拡大される可能性がある。さらに、各国でアウトブレイクが報告されているSARSやMARS、H5N1鳥インフルエンザなど、重症化しやすい感染症による重症呼吸不全の有効な治療手段となることも期待される」と、述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース