2013年6月以降、積極的勧奨が停止状態のHPVワクチン接種
大阪大学は12月21日、現在停止状態であるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が今後再開された場合に直面する課題への対応策を提言としてまとめ、発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の上田豊講師(産科学婦人科学)らのグループによるもの。研究成果は、英科学誌「Lancet Oncology」2018年19巻に掲載された。
画像はリリースより
HPVワクチンの接種は、厚生労働省による積極的勧奨の一時差し控えによって、2013年6月以降停止されている。その安全性については、厚労省の調査で、ワクチンを接種していない女子においても、接種者に見られる症状と同様の多様な症状が認められることが示され、また、名古屋市の調査では、ワクチン接種との関連が懸念された24種類の多様な症状が、接種者と非接種者で頻度に有意な差が認められなかったことが報告されている。
HPV感染のリスクと子宮頸がん発症のリスクを減らすためには、HPVワクチンの接種が重要であり、厚労省の積極的勧奨が再開された場合は「HPVワクチンの積極的勧奨一時差し控えによる子宮頸がん罹患リスク上昇の軽減」と「積極的勧奨が再開された場合のHPVワクチン再普及」が課題となるが、この対応策についての報告は、これまでなかった。
上田講師「積極的勧奨が再開されるだけでは不十分」
今回、研究グループは、厚労省の積極的勧奨が再開された場合の課題とその対応策を検討し、以下の6点を提言としてまとめた。
A)ワクチン接種を見送って対象年齢を超えた女子へ接種を行うこと
B)子宮頸がんの8-9割が予防できると考えられている9価ワクチンを導入すること
C)HPVワクチンを見送った女子と同年代の男子へ接種を行うこと
D)子宮頸がん検診の受診勧奨等による、積極的勧奨一時差し控えによる健康被害を軽減すること
E)行動経済学的手法を駆使した接種勧奨にてワクチンの再普及を図ること
F)メディアに正確な情報を提供すること
A~Cは、ワクチン接種についての提言。HPVワクチンは、感染前に接種することで予防効果が得られるが、感染した状態であったとしても、HPVには100種類以上の型があるため、ワクチン接種を行うことで、感染したウイルス型以外のHPVの予防効果が期待される。また、現在日本で接種可能な2価ワクチンと4価ワクチンに加えて、9価のワクチンが開発されており、海外では認可され始めている。これを用いることで、子宮頸がんの8~9割の予防が可能と考えられていることから、この9価のワクチンを日本で導入することを提言したという。さらに、HPVワクチンを見送った女子と同年代の男子へも接種を行うことで、HPVのリスクを減らすことが可能になるとしている。
D~Fは、情報・意識についての提言。厚労省のHPVワクチンの積極的勧奨が再開されると同時に、子宮頸がん検診の受診を勧奨することで、子宮頸がんの早期発見につながることが期待される。そして、ワクチンを打つことによって得られるメリットを、行動経済学的手法を駆使して、科学的かつ効果的に発信することを挙げている。そしてこれらの情報を正確にメディアに発信することが重要であるとしている。
研究グループの上田講師は、「HPVワクチンはいわゆる副反応報道と積極的勧奨一時差し控え継続により、接種はほぼ停止状態であり、ワクチンを接種せずに対象年齢を越えて性交渉を持ち始める女子が次々に出現している。今後、厚労省によって積極的勧奨が再開されるだけでは不十分と言わざるを得ない。少しでも積極的勧奨一時差し控えの負の影響を軽減する必要がある」と述べている。
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・大阪大学 研究成果