microRNAが発がんに関与
金沢大学は12月19日、胃がんの発生を促進するmicroRNAの特定に成功したと発表した。この研究は、同大ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所の大島正伸教授の研究グループによるもの。研究成果は「Gastroenterology」に掲載されている。
画像はリリースより
胃がんは、日本を含むアジア地域に多いがんで、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が関与していることが知られている。現在、同菌の除菌が胃がんの予防に有効と考えられているが、感染が発がんを促進する分子機構については明らかにされていない。その一方、近年では標的遺伝子の発現を抑制する分子群「microRNA」が、発がんにも関与することが明らかになってきている。
miR-135bの欠損で粘膜の肥厚が抑制
今回、研究グループは、胃炎および胃がんを自然発症するマウスモデルを用いて、ヘリコバクター・ピロリ菌感染による胃がん発生過程に、microRNAが関与する可能性について研究を行った。
まず、金沢大学で開発された胃がんマウスモデル(Ganマウス)の胃がん組織から腫瘍細胞とそれ以外の間質細胞を分離して採取。腫瘍細胞だけで発現が変化するmicroRNAをマイクロアレイによって探索し、候補分子を明らかにした。その中から、ヒト胃がん組織で最も顕著に発現が亢進しているmicroRNAとして、miR-135bを特定。さらに、miR-135bの発現は、ヘリコバクター・ピロリ菌の類縁種であるヘリコバクター・フェリス菌を感染させたマウス胃炎組織でも強く誘導されることが確認された。その分子機構として、感染が引き起こす胃炎組織では、活性化した間質細胞がサイトカイン分子のインターロイキン1(IL-1)を産生し、それが胃粘膜上皮細胞を直接刺激してmiR-135bの産生を誘導することを明らかにした。また、miR-135bを強く発現する胃がん細胞が、miR-135bを細胞外に分泌する現象も認められたという。
感染により胃炎を起こすと、胃粘膜上皮細胞の増殖が亢進して粘膜が肥厚するが、慢性胃炎を起こしたマウスモデルのmiR-135b遺伝子を欠損させると、胃粘膜上皮細胞の増殖が顕著に抑制され、粘膜の肥厚が抑えられることが判明。この結果から、炎症反応で発現誘導するmiR-135bは、胃がん細胞だけでなく、前がん状態の胃粘膜上皮細胞の増殖を促進する作用により、胃がんの発生を促進すると考えられるとしている。さらに、miR-135bが標的として発現を制御する遺伝子を探索した結果、FOXN3とRECKが重要な候補であることも明らかになった。
研究グループは、これらの遺伝子の発現抑制がどのように発がんに関与するかを解明することが今後の課題としたうえで、「miR-135bは胃がんの早期発見マーカーとなる可能性とともに、胃がんの予防・治療標的分子となる可能性が期待される」と述べている。
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