歯周炎の慢性化に深く関わると示唆されるP.gingivalis
東北大学は12月17日、最も強力な歯周病原細菌「Porphyromonas gingivalis」に感染すると、歯ぐきのマスト細胞からインターロイキン(IL)-31が産生されることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科口腔分子制御学分野の多田浩之講師と口腔診断学分野の西岡貴志助教の研究グループによるもの。研究成果は「Cellular Microbiology」に掲載されている。
画像はリリースより
Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)は、歯周病の進行に大きく関わる最も強力な歯周病原細菌。歯周病が進行すると歯の周りを構成する歯周組織が破壊され、歯の喪失にいたる。この歯周組織の破壊をもたらすのは、歯周病原細菌により引き起こされる慢性炎症であり、P.gingivalisは歯周炎の慢性化に深く関わることが示唆されている。
マスト細胞は、粘膜や皮膚に存在する免疫細胞の一種であり、粘膜での感染の防御に役立っているが、一方で関節リウマチなど慢性炎症を特徴とする病気を悪化させることが知られている。歯周病に罹患すると、炎症を起こしている歯周組織にマスト細胞が集積することは示されていたが、マスト細胞が歯周病の進行にどのように関わっているかは、これまで明らかにされていなかった。
P.gingivalisが産生するジンジパインがIL-31産生を誘導
研究グループは、P.gingivalisによる歯周炎マウスモデルを用いた実験を行い、口腔にP.gingivalisを感染させると歯肉のIL-31 mRNA発現が著明に亢進することを発見。マスト細胞欠損マウスではP.ingivalis感染による歯肉のIL-31 mRNA発現に変化はみられなかったことから、P.gingivalisによる歯肉のIL-31発現上昇にはマスト細胞が関わる可能性が示唆された。
次に、P.gingivalisの感染によりマスト細胞からIL-31が産生されるメカニズムについて、ヒトマスト細胞株にP.gingivalisW83株を感染させて検討したところ、著明にIL-31が産生されることを発見した。P.gingivalisはシステインプロテアーゼのジンジパインを産生することで、宿主細胞に多様な病原性を示すことが明らかにされていることから、P.gingivalisによるマスト細胞のIL-31産生誘導が、ジンジパインにより担われる可能性を検討。ジンジパインを欠損するP.gingivalisを用いて検討したところ、マスト細胞のIL-31産生が完全に消失したことから、P.gingivalisが産生するジンジパインがマスト細胞のIL-31産生を誘導することが明らかになった。
口腔の粘膜は、上皮細胞による角質層とタイトジャンクションの2つのバリアによって病原微生物の侵入を阻止しており、クローディン-1は歯肉におけるタイトジャンクションを構成する重要な役割を担っている。研究グループは、P.gingivalisの感染によりマスト細胞から産生されたIL-31は、歯肉上皮細胞のクローディン-1発現を抑制させることも見出したという。
歯肉粘膜バリアの破綻は、歯周炎の慢性化に関わる可能性が想定される。研究グループは、「歯周病における慢性炎症は歯の喪失の原因となることから、慢性炎症のコントロールを目的とした予防・治療法の開発が期待される」と述べている。
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