■協和病院、東大など共同研究
統合失調症患者が退院して地域に移行する上で、どのような抗精神病薬の使用順序が費用対効果に優れているのか解析した結果を、村田篤信氏(協和病院薬剤科)、五十嵐中氏(東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学)らの研究グループがまとめた。3剤を対象に6通りの組み合わせを比較した結果、まずはアリピプラゾール(ARP)を投与し、次にリスペリドン(RIS)に切り替える治療戦略の費用対効果が高いことが明らかになった。実臨床データをもとに模擬的な解析を行って推計した。このような解析は日本では初めてという。
抗精神病薬の効果や副作用には、薬剤によって違いがある。統合失調症の再発率を抑制する効果や、地域への移行を推進する効果、副作用として錐体外路症状やメタボリックシンドロームが発現する確率は、薬剤ごとに異なり、それぞれ特徴がある。
統合失調症患者の薬物療法は通常、効き目が弱かったり、副作用発現が認められたりする場合には、患者の状態に応じて抗精神病薬を切り替えることが少なくない。また、主流である非定型抗精神病薬は、旧来の薬剤より価格が高い。各薬剤の効果や副作用、価格には違いがある中で、患者の地域移行を目指す上で、抗精神病薬をどう使用すれば、効果と費用のバランスがとれた薬物療法になるのかは、これまで日本ではほとんど検討されていなかった。
村田氏らは、協和病院で2014年10月から18年8月まで、内服の抗精神病薬の単剤治療を1カ月以上実施した、重度かつ慢性でない患者48人を対象に解析を実施した。その内訳は、オランザピン(OLZ)投与25人、ARP投与18人、RIS投与19人。各患者の地域移行達成率、再発率、錐体外路症状とメタボリックシンドローム発症率を算出。健康アウトカムとしてそれぞれのQOLを算出した。
費用対効果を推定する上で必要な費用は、日本における統合失調症の疾病費用分析と薬剤費、協和病院で副作用ケアに関与した医療職の診療報酬額とそれに要した期間から割り出した。
これらのデータから1000人当たりのコストと質調整生存年(QALY)を計算。各薬剤の費用対効果評価のデータを算出した。
その上で模擬的な解析を実施した。統合失調症患者に3剤の抗精神病薬の中から1剤目による治療を実施し、退院して地域に移行した後に再発したり、半年以内に地域移行を達成できなかったりした場合に2剤目に切り替えるケースを想定。この間に、それぞれの確率で錐体外路症状やメタボリックシンドロームが発生すると仮定した。
3剤の使用順序の組み合わせは全部で6通り。各組み合わせについて、3年間の治療期間における費用やQALYを算出し、費用対効果を評価した。その結果、1剤目にARP、2剤目にRISを使用する組み合わせの費用対効果が最も優れることが明らかになった。
一方、この組み合わせにおいて、外来で内服を継続した場合と、持効性注射剤(LAI)を導入した場合を比較した解析も実施した。一般的にLAIは高額だが、再発率は低くなり入院を回避できるため、QOLは高まる。
確率的感度分析を行ったところ、このケースにおいても、LAIの導入によって75%の確率で医療費はむしろ減額される可能性があることが分かった。ARP以外の薬剤を1剤目として使用した場合でも、同様の傾向が認められたという。村田氏は「高額でも有用性の高い薬剤の使用を優先する治療戦略は、薬剤経済学的観点から妥当と考えられる」としている。
村田氏らは今後、クラウドファンディング等による支援を受け、対象薬剤を拡大した研究を実施したい考えだ。