高度な技術が必要な高温超伝導線を用いた粒子加速器用電磁石
京都大学は12月13日、高温超伝導を用いた粒子加速器用電磁石の機能実証に成功したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究科の雨宮尚之教授、東芝エネルギーシステムズ株式会社、高エネルギー加速器研究機構、量子科学技術研究開発機構らの研究グループによるもの。研究成果は、同日「第31回国際超電導シンポジウム」にて発表された。
画像はリリースより
現在使用されている主な超伝導線には、10K程度で超伝導になる「低温超伝導線」と、100K程度で超伝導になる「高温超伝導線」がある。高温超伝導線は超伝導を維持できる温度が高いため、液体ヘリウム温度4Kよりも高い10K~20K以上の温度で運転できる。さらに、何らかの理由で熱が加わり温度が上昇しても、超伝導状態が破れにくいという利点を有している。これは、安定した運転が強く要求される医療用粒子加速器などへの応用を考えた場合の大きなメリットであるが、高温超伝導線を構成する超伝導材料は脆いセラミックスのため、コイルに巻くためには高度な技術が必要で、これまでに高温超伝導線を用いた粒子加速器用電磁石は実用化されていない。
研究グループは、高温超伝導線でコイルを設計製造する技術を開発し、これを用いて、小型で軽く省エネで高い磁界を発生できる粒子加速器用電磁石を作るための技術の研究開発を進めてきた。このような電磁石が実現できれば、がん治療や核廃棄物の有害度低減などに用いるための粒子加速器を小型化、省エネ化することができるという。
粒子線がん治療装置の超小型化、省エネ化の実現を目指す
今回研究グループは、資源の枯渇が心配される液体ヘリウムを使わずに冷却できる加速器応用に向けた高温超伝導電磁石を開発し、その機能を調べる実証実験を重粒子線がん治療装置(HIMAC)で実施。その結果、銅線を使った電磁石では発生できない2.4テスラという高い磁界によるがん治療用炭素イオンビームの誘導を実証し、粒子加速器の運転上の支障を想定した高温超伝導コイルへの粒子ビームの直接入射を行っても超伝導状態が破れず電磁石が安定して動作し続けることを実証した。さらに、発生する磁界を繰り返し速く変化させても、電磁石を安定して運転できることを確認したという。
研究グループは「今後、高温超伝導電磁石の高磁界化や磁界を変化させたときに超伝導体の内部で発生する交流損失の低減などの研究開発に取り組み、粒子線がん治療装置の超小型化、省エネ化の実現を目指す。これにより、粒子線がん治療装置の一般病院への設置が可能になれば、健康長寿社会に大きく貢献できると期待している」と、述べている。
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・京都大学 研究成果