1990~2001年に治療したT-ALL66例の5年生存率は35%
自治医科大学は12月13日、小児・AYA世代(思春期・若年成人)の白血病に有効な治療薬を発見したと発表した。この研究は、同大幹細胞制御研究部の齋藤詩緒里大学院生(当時)、菊池次郎准教授、小山大輔博士(本学30期生)、古川雄祐教授らが、理化学研究所や山梨大学と共同で行ったもの。研究成果は、米国がん学会誌「Clinical Cancer Research」オンライン版に掲載されている。
急性Tリンパ芽球性白血病(T-ALL)は、小児からAYA世代に多く発症する血液がん。現在は、骨髄移植と抗がん剤を組み合わせた治療が行われているが、日本成人白血病治療共同研究グループによると、1990~2001年に治療したT-ALL(66例)の5年生存率は35%と、その予後は極めて不良だ。中でも、白血病細胞の中枢神経(脳)転移がある患者では5年以上の生存が望めないことから、脳転移のある患者にも有効な新規治療薬の開発が望まれている。
臨床応用に向けて製薬企業と交渉
自治医科大学・幹細胞制御研究部では、2015年にT-ALLの発症に遺伝子発現の制御に関わるリジン特異的脱メチル化酵素(LSD1)の関与を明らかにし、米血液学会誌Blood誌に報告。ここから、LSD1に対する阻害剤がT-ALLに対する有効な分子標的薬になりうると考え、今回の研究を開始したという。その結果、脳への移行性が優れ、特異性が高く低濃度で有効な新規LSD1阻害剤の創出に成功。このLSD1阻害剤は、白血病モデルマウスにおいて脳に転移した白血病細胞の増殖抑制と生存期間延長効果を示した。今後、臨床試験によりヒトでの安全性と有効性が検証されれば、脳転移にも有効な世界初の分子標的薬として大幅な延命効果が期待できる。
なお、これらの研究成果は、理化学研究所と共同で「リジン特異的脱メチル化酵素1阻害活性を有する新規化合物、その製造方法及びその用途」という名称で特許も出願。現在、臨床応用に向けて製薬企業と交渉を進めているという。
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