約30%が重い後遺症や死亡に至る新生児低酸素性虚血性脳症
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は12月12日、赤ちゃんの出生時に起こる脳疾患の中で最も多い新生児低酸素性虚血性脳症の早期発見につながる有効なバイオマーカーを新たに発見したと発表した。この研究は、同センター神経研究所疾病研究第2部の伊藤雅之室長らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Pediatrics」に掲載されている。
新生児低酸素性虚血性脳症は、母体内で、あるいは分娩中になんらかの原因で新生児の脳への酸素供給や血流が滞ることによって引き起こされる脳障害。年間約2,500人に発生し、約30%程度が死亡や重篤な後遺症を残す。受傷後6時間以内の低体温療法の有効性が報告されるようになったが、早急な専門医療施設での治療が課題となっている。
研究グループはこれまでの研究から、新生児低酸素性虚血性脳症のモデル動物の脳でLOX-1という分子が増加し、低体温療法を行うと減少すること、そして抗LOX-1中和抗体により治療効果があることを見つけていた。
出生時のsLOX-1測定で高精度な予後予測も可能に
今回研究グループは、同施設と4施設(東京都立小児総合医療センター、東京大学医学部附属病院、埼玉県立小児医療センター、青梅市立総合病院)の5施設共同研究を行い、72例の成熟新生児の生後6時間以内の血液のsLOX-1を測定。その結果、重症度が上がるにつれてsLOX-1も高くなり、中等度と重度症例では、軽度症例に比して有意に高く、sLOX-1値を550pg/ml以上とした場合に特異度83%、陽性的中率94%だった。これは、血液のsLOX-1を測定することで高い確率で重症度がわかることを示しており、新生児医療に慣れていない医師でも容易に専門医療施設での治療が必要か否かを判断できると考えられる。
画像はリリースより
また、約1か月後の退院時症状なしの予後良好群は、1,000pg/ml以下とした場合に、特異度100%、陽性的中率100%となり、神経学的症状(死亡、聴覚障害、麻痺など)を有した予後不良群は、1,900pg/ml以上とした場合に、特異度93%、陽性的中率75%だった。これは、出生時のsLOX-1測定によって、予後予測が高い精度で可能であることを意味しているという。
今回の研究は、患者数が少なかったこと、また短い観察期間であったため、結果が臨床応用できるかどうかは、確認できていないという。研究グループは、2018年度より、規模を大きくした前方視的コホート研究を行い、新生児低酸素性虚血性脳症の臨床応用を進めていくとしている。
▼関連リンク
・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース