長期休職や退職の原因となるうつ病
九州大学は12月8日、うつ病早期支援のための社員向け短時間研修プログラムの開発し、このプログラムをパイロット試験として実施したところ、受講者のアンケート結果から、不調者へ対応するスキルと自信の向上を認めたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の神庭重信教授(精神医学分野)、加藤隆弘講師らと、岩手医科大学の大塚耕太郎教授の共同研究グループが、日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業の支援を受けて行ったもの。研究成果は、国際科学雑誌「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、職場でうつ病などメンタルヘルスの不調を抱える社員が増えており、長期の休職や退職に至るケースもあることから、日本の産業全体への影響も懸念され、その対策は喫緊の課題となっている。うつ病は、抑うつ気分、意欲低下、不眠、倦怠感や痛みといった身体症状など、さまざまな症状を呈する。早期介入・早期治療が重要だが、知識不足や偏見などにより、特に初期には症状を自ら訴えることが稀であり、周囲も声をかけづらく、受診が遅れがちだ。
2時間の暫定プログラムで不調者への対応スキルなどが向上
今回のプログラムは、オーストラリアで市民向けに開発されている「メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)」とよばれる心の応急対応法を基にしたもの。オーストラリアでは、一般市民が受講可能な12時間のMHFAを学ぶプログラムが開発されており、国民のメンタルヘルス向上に貢献している。また、米国・英国などでは国家プロジェクトとして教育現場などに取り入れられている。同研究グループは、2007年にMHFAを日本に導入し、MHFAのエッセンスを震災支援事業や自殺対策事業に取り入れていた。
今回、多忙な社員でも受講しやすいように2時間の暫定プログラムを作成。うつ病に関する知識に加え、上司役・メンタルヘルスの不調を抱える社員役によって構成されるシナリオロールプレイ演習を通じ、体験しながらMHFAの5原則が実践的に身につく内容になっている。同プログラムをパイロット試験として一般企業の会社員83名に受講してもらい、受講の前後1か月後で、受講者にアンケートを実施した。回答結果から、特に「メンタルヘルス不調者へ対応するスキル」と「不調者へ関わる上での自信」の向上を認め、その効果は1か月後も持続。さらに、「メンタルヘルスの不調に対する偏見」は、プログラム受講後に低下したという。これらの結果から、社員に対して同プログラムが有効である可能性が、パイロット試験として示されたとしている。
研究グループは「開発しているプログラムの有効性が今後の大規模試験で実証され、プログラムが広く国内の多くの企業で普及することで、職場でのうつ病の早期発見・早期治療につながる可能性が高まり、休職や離職など産業保健における課題克服に貢献することが大いに期待される」と、述べている。
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