紀伊半島南部で多発する、3つの症状を特徴とする認知症
量子科学技術研究開発機構は12月8日、日本の特定地域に多発する認知症患者に、認知機能障害や運動機能障害が生じる原因を解明する研究結果を発表した。この研究は、量研放射線医学総合研究所脳機能イメージング研究部の島田斉主幹研究員と篠遠仁上席研究員らと、三重大学の小久保康昌招へい教授、千葉大学大学院医学研究院・神経内科学の桑原聡教授と共同で行われたもの。研究成果は、米国神経学会が発行する科学誌「Neurology」オンライン版にて公開された。
画像はリリースより
認知症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(PD)などの神経難病では、もの忘れなどの認知機能障害だけでなく、しばしば運動機能の障害も見られる。しかし、原因については未解明な部分が多く、十分に効果的な治療ができていない。
紀伊半島南部には、ALSに似た進行性の筋萎縮症、PDに似た運動機能障害、意欲低下が目立つ認知機能障害の3症状を特徴とする認知症が多発しており、紀伊ALS/パーキンソン認知症複合(紀伊ALS/PDC)と呼ばれている。認知機能障害に加えて運動機能障害を伴う紀伊ALS/PDCの原因の解明は、さまざまな認知症や神経難病の原因解明や治療・予防の開発にも役立つと期待されている。
認知機能障害が重度な患者ほど、広範にタウが多く蓄積
これまで、主に紀伊ALS/PDC患者の死後脳を用いた研究では、脳内の病理変化としてタウ蓄積が確認されていた。しかし、認知機能障害や運動機能障害との関連は十分には明らかとなっていなかった。そこで、量研で開発した生体脳でタウを可視化するPET技術を用いて、さまざまな症状を呈する紀伊ALS/PDC患者を対象にタウ蓄積が多い部位と、臨床症状との関連を調べた。
その結果、認知機能障害が重度な紀伊ALS/PDC患者ほど、広範な脳領域にタウが多く蓄積しており、タウ蓄積量と認知機能障害の重症度が関連していたことがわかった。さらに、錐体路にタウが多く蓄積している患者では、ALS様の運動機能障害が顕著であることを見出した。
これらの結果は、紀伊ALS/PDCにおいて、タウの脳内蓄積が多様な臨床症状に関与していることを示している。また、タウの脳内蓄積を認めるさまざまな認知症や神経難病において、タウが発症に関与している可能性をも示唆するものだ。研究グループは、「今後、脳内タウ病変を標的とした早期診断・治療により、心身機能の低下をもたらす認知機能障害と運動機能障害、両者の予防の実現につながることが期待される」と述べている。
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・量子科学技術研究開発機構 プレスリリース