複数のQTLと環境要因が複雑に絡み合って統御される肥満
名古屋大学は12月6日、肥満抵抗性に関わる新たな遺伝子として「Ly75」を同定したと発表した。この研究は、同大大学院生命農学研究科の石川明准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
世界保健機関(WHO)によると、世界のおよそ3人に1人が過体重または肥満であり、この割合は年々上昇していると報告されている。肥満は、複数のQTL(quantitative trait loci)と環境要因が複雑に絡み合って統御されている。これまでに、ヒトやモデル動物において、BMI、体重、白色脂肪組織重量や血中脂質濃度などの肥満に関わる形質を制御する多くのQTLが染色体上に位置づけられてきた。しかし、個々のQTLの肥満形質におよぼす効果は小さいため、QTLの原因遺伝子を同定することは容易なことではない。
研究グループは、これまでに野生マウスの遺伝資源から、白色脂肪組織重量を減少させるQTLを発見。さらに、全ゲノムリシーケンス解析や遺伝子発現解析などにより、免疫系に関わるLy75(lymphocyte antigen 75)遺伝子が、この肥満抑制QTLの最有力候補遺伝子であることを明らかにしていた。
Ly75のmRNA発現量が高くなると白色脂肪組織重量が減少
今回の研究では、Ly75のノックアウトマウスなどを用いた遺伝解析や遺伝子発現解析などにより、肥満抑制QTLの原因遺伝子がLy75であることを世界で初めて明らかにした。また、因果分析により、Ly75の遺伝子型やLy75のmRNA発現量と白色脂肪組織重量の間には、因果関係があることを証明し、遺伝子型の変化により、発現量が高くなると白色脂肪組織重量が減少する、つまり肥満を抑制することを明らかにした。この遺伝子は、免疫応答に関わる機能を担うことがこれまでに報告されていたが、肥満に関する報告は全くなかったという。
今回の研究成果は、肥満に関わるQTLの原因遺伝子を同定した数少ない成功例のひとつであり、肥満生物学に新たな知見をもたらすものとして期待される。今後、Ly75遺伝子の脂質代謝に関わる分子機能を解明することが必要となるが、研究グループは、「ヒトでは、万病の元である肥満を克服するためのゲノム医療への応用に繋がり、家畜では、健康改善と畜産物の生産性の向上のためのゲノム育種への応用に繋がる」と述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース