進化の過程で多彩な役割を担ってきた「プロラクチン」
千葉大学は12月5日、プロラクチン 受容体遺伝子(PRLR)の機能喪失変異を解析し、プロラクチン-プロラクチン受容体シグナルが母乳分泌量とプロラクチン血中濃度の調節に関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の生水真紀夫教授のグループによるもの。研究成果は「New England Journal of Medicine」に発表されている。
画像はリリースより
プロラクチンは、脊椎動物の脳下垂体ホルモン。その働きは多彩で、魚類では血清浸透圧の調節、両生類では変態、鳥類では渡り行動、ほ乳類では乳汁分泌に関与している。さらに、げっ歯類では、プロラクチンの黄体刺激作用が妊娠維持に不可欠で、妊娠中の膵臓β細胞の増殖や免疫調節にも関わっている。このように、プロラクチンは進化の過程で多彩な役割を担ってきたが、ヒトでの解析は困難で、その作用はよくわかっていなかった。
PRLR変異を1つもつ場合、母乳分泌量が少なく
今回、研究グループは、PRLRに変異をもつ家系の解析を実施。その結果、この家系では、プロラクチン受容体タンパクのC末端側2/3が欠損する変異(R171Ter)と、シグナル伝達に重要な領域のアミノ酸に置換が生じる変異(P269L)とがあった。また、両方の変異がある場合、シグナル伝達機能が遺伝子変異のない場合の1%以下に低下していたという。さらに、両方の変異をもつ場合には、(1)高プロラクチン血症、と(2)母乳分泌の欠如とが認められた。一方、妊娠分娩は正常で、生まれた児も健康だった。変異を1つもつ場合には、母乳分泌量が少なくなったという。
下垂体ホルモンは、一般に、内分泌腺に作用してホルモン分泌を促し、このホルモンは脳の神経細胞に作用して下垂体ホルモン分泌を抑制する。その結果、下垂体ホルモンの血中濃度は一定に保たれる。ところが、プロラクチンの場合、乳腺からのホルモン分泌がないため、どのように血中濃度が調節されているのか不明だった。今回、プロラクチン受容体の欠如により血中プロラクチン値の上昇がみられたことから、 プロラクチン自身が脳の神経細胞を直接抑制していることが示された。
これらの研究により、母乳の分泌量が遺伝的に決まっていることが判明した。このことから「母乳量は個性」のひとつと理解されるため、研究グループは、「『母乳の出が悪い』ことで悩まないお母さんが増えることが期待される」と述べている。
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