東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査より
東北大学は12月5日、東北メディカル・メガバンク計画の地域住民コホート調査において、震災被害の長期的な影響として、家屋被害の大きさと心理的苦痛、平均歩数、骨密度で関連が示されたと発表した。この研究成果の主な内容は、2018年10月に福島県郡山市で開催された「第77回日本公衆衛生学会総会」にて発表されている。
画像はリリースより
東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として計画され、宮城県では東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、岩手県では岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)が事業主体となり、長期健康調査(地域住民コホート調査、三世代コホート調査)を実施している。地域住民コホート調査は、宮城県と岩手県の20歳以上の人を対象として、2015年度末までに参加募集を完了。両県あわせて8万4,073人が参加している。参加者に対しては、郵送による追跡調査などを実施しているが、2017年6月からは、より詳細な健康状態を把握するため、宮城県内に設置された7か所の地域支援センターで、詳細二次調査を開始した。
同調査は、2013年に開始されたコホート調査で行われた最初の採血などから概ね4年経過時点で行われ、さまざまな検査により、参加者の経時変化を幅広い観点で測定。震災の影響に加え、加齢や生活環境の影響を調べるものだ。
家屋被害→平均歩数低下→骨密度低下、負の循環が発生か
今回の調査で、家屋被害の大きさと関連が示されたのは、心理的苦痛、平均歩数、骨密度だった。心理的苦痛あり(K6スコア≥13点)の割合は、家屋被害の程度に関わらず、2013~2015年に実施したベースライン調査と比して、詳細二次調査では低くなっていたが、どちらの調査でも、家屋被害の大きかった人で心理的苦痛のリスクが高かった。このことから、引き続き震災後の心理的苦痛について、継続的な支援が必要であると考えられる。また、平均歩数はベースライン調査から引き続き、家屋被害が大きい人で低い平均歩数が継続していた。さらに、骨密度に関しても、平均歩数の低下などを介して骨密度低下が認められ、「家屋被害→平均歩数低下→骨密度低下」という負の循環が発生している可能性がある。これらの結果から、被災の大きかった人に対しては、積極的な外出を勧奨することが必要であることが示唆された。
一方、糖尿病の診断や血糖コントロール状況の評価に用いられる血糖値の平均を反映する指標「HbA1c」、頸動脈内膜中膜肥厚(Intima Media Thickness:IMT)、家庭血圧値の変化については現時点で関連は示されなかったという。家庭血圧については、震災時の家屋の被害状況とその後の血圧変化に関連がなかったが、ベースライン調査時の尿中Na/K比とその後の家庭血圧変化を検討すると尿中Na/K比の大きい群で血圧上昇の程度が大きいことが観察された。
家庭血圧については、震災時の家屋の被害状況とその後の血圧変化に関連がなかったが、ベースライン調査時の尿中Na/K比と、その後の家庭血圧変化を検討すると尿中Na/K比の大きい群で血圧上昇の程度が大きいことが観察された。また、塩分摂取指標と腎機能障害の発生について分析したところ、推定塩分摂取量では差がなかったが、尿中のNa/K比が有意に腎機能低下と関連していた。特に推定K摂取量と腎機能低下発症の負の関連が観察され、腎機能正常だったものについては、尿中Na/K比が低いもので腎機能悪化のリスクが小さいことが示された。従来、尿中Na/K比と腎機能悪化リスクの関連は示唆されていたが、今回の報告で初めてデータとして明らかになったという。また、簡便に得られる尿中のNa/K比の測定値が、長期的な健康影響を示す指標として有効であることも明らかになった。
今回の結果から、いまだ震災被害が心身に影響を与え、一部検査データの項目にもその影響が出ていることが判明し、継続的な骨密度や動脈硬化などの詳細な検査の有効性も明らかになった。研究グループは、「今後もコホート調査から得られた分析結果を県・市町村をはじめとする自治体・地域と共有し、いかにして震災からの二次健康被害を軽減していくかについて検討を進めていく。調査を継続し、得られた情報から新たな知見、未来型の個別化予防・個別化医療が生まれることが期待される」と述べている。
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