炎症反応やがんにも関与するプロスタグランジン
関西医科大学は11月30日プロスタグランジン(PG)の受容体の立体構造をX線結晶構造解析によって世界で初めて解明したと発表した。この研究は、同大医化学講座の清水(小林)拓也教授、豊田洋輔研究員、森本和志研究員らの研究グループが、京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学分野の岩田想教授、同大医学研究科創薬医学講座の成宮周特任教授、熊本大学大学院生命科学研究部薬学生化学分野の杉本幸彦教授らと共同で行ったもの。研究成果は「Nature Chemical Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
PGは、各々に特異的な受容体に結合することで急性炎症の発赤や熱感、腫脹、痛みなどの局所反応から、発熱、倦怠感、食欲不振などの全身反応まで、幅広く関与している。PGのひとつであるPGE2に応答する細胞は、異なるPGE2受容体(EP1、EP2、EP3、EP4)を介して、複数の異なるシグナルを伝達。いずれもGタンパク共役受容体(GPCR)と呼ばれる膜タンパク質で、創薬の標的として世界中から注目を集めている。
また近年は、PGの慢性炎症作用やがんへの作用も注目されている。アスピリンは種々の基礎研究においてさまざまながんの発症・進展を抑制することが報告されているが、その機序は不明だった。一方、近年の研究からは、炎症を伴う大腸がんにおいて、PGE2が異なるPGE2受容体を介して炎症を悪化あるいは改善し、がんの進展に影響を与えることが判明していた。
今回の研究の対象となったEP4の拮抗薬は、がんの免疫抑制を解除する薬物として、複数の製薬会社で治験が行われている。また、PGE2はEP3を介してがんの進展を抑えることが判明しており、いずれも、受容体を基盤にPGの良い作用を促進し、悪い作用を抑制する選択的な薬物「スーパー・アスピリン」の開発が期待されている。そこで研究グループは、PGE2受容体の立体構造を基盤として、受容体選択性の高い薬物の開発を目指したという。
PGE2とEP3、EP4拮抗薬とEP4の結合様式が判明
研究グループは、まず昆虫細胞を用いてPGE2受容体(EP3とEP4)を大量に発現。次に、EP4に対してはPGE2-EP4シグナルを阻害する抗体をEP4に結合させ、各々を膜タンパク質の結晶化で効果を上げている脂質立方相法を用いて結晶化した。しかし、初めに得られたEP4の結晶は、分解能が高くなかったため、共同研究者である京都大学エネルギー理工学研究所の木下正弘教授および千葉大学大学院理学研究科の村田武士教授のグループが開発した理論的耐熱化予測法を利用して、さらに安定的なアミノ酸変異体を探索。その結果、結晶の分解能を向上させることに成功し、EP4拮抗薬(ONO-AE3-208)が結合したEP4と抗体の複合体の立体構造と、PGE2が結合したEP3の立体構造を解明した。
EP3とEP4の全体構造は、これまでに報告されているGPCRと同様に7本の膜を貫通したらせん構造を有していた。また、2番目の細胞外ループがβヘアピン構造を取り、オルソステリック部位に蓋をするように覆っていた。そのため、ONO-AE3-208は細胞の外側からダイレクトに受容体に結合するのではなく、一旦細胞膜の中に入り、脂質二重層との境界面に結合することが示唆されたという。
PGE2はONO-AE3-208よりもさらに受容体の奥に入り込み完全に閉じ込められていた。さらに、EP3はダイマーを形成し、脂質二重層の成分であるリン脂質がダイマーを安定化していることが示唆された。これは、新しい薬剤の設計に繋がる重要な構造情報である。加えて、PGE2-EP4シグナルを阻害する抗体は、EP4の細胞外領域(アロステリック部位)に結合し、PGE2の結合を阻害していることが判明し、脂質受容体をターゲットにした抗体医薬の開発につながると考えられる。
研究グループは、「PGE2とEP3、EP4拮抗薬とEP4の結合様式が明らかになったことで、作用の発揮と抑制に関わる受容体の立体構造を基に、より有効性の高く副作用の少ない治療薬の開発が期待できる」と述べている。
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・関西医科大学 報道資料