発症要因として遺伝的な要因と脳発達要因が知られるADHD
科学技術振興機構(JST)は12月3日、注意欠如・多動症(ADHD)児の脳の構造解析に人工知能(AI)を導入し、ADHD児には特定の脳部位に特徴があることを高精度で明らかにしたと発表した。この研究は、福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授とジョンミンヨン特命教授らによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Cerebral CORTEX」に掲載されている。
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ADHDは神経発達症(発達障がい)のひとつで、不注意や多動性−衝動性を特徴とする。国内での有病率は3~7%程度とされ、発症の要因としては、遺伝的な要因と脳発達要因が知られているが、その仕組みと関係性については、まだ明確にされていなかった。
近年、世界中で種々の神経発達症に対し、AI技術を用いた新たな診断法、治療法の開発を目指す研究プロジェクトが始まっている。一方、研究グループは、これまでにADHDの発症を巡る遺伝的要因と脳発達要因を磁気共鳴画像法(MRI)による脳構造・ネットワークの把握によって解明してきていた。
画像解析の結果とCOMT遺伝子多型の関係を検討
今回、研究グループは、精度の高い人工知能技法のひとつである機械学習を利用することで、MRIによる脳画像データによる診断やADHD児の遺伝的要因との関連を解明することが可能だと仮定。米国の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)に基づいて診断された7~15歳のADHD児童39人と、年齢、IQ(知能指数)がマッチした定型発達児34人(いずれも男児)を対象に、MRIを用いて脳の撮像を実施。全148の脳領域ごとに脳皮質の厚みと面積のデータを取得し、「サポート・ベクター・マシン」という機械学習の技法で解析した。
その結果、148領域のうち眼窩前頭皮質外側など16領域の皮質の厚み、11領域の皮質の面積にADHDの特徴が現れることが判明。各領域の厚みや面積の個々の値に、ADHDであるか否かの境界値が明確にあるわけではないものの、これらの値の全体像から74~79%の精度で、識別できることを確認したという。さらに、この成果とADHDの発症に関連があるとわかっているCOMT遺伝子の多型について検討したところ、眼窩前頭皮質外側など2領域で、多型のうち、あるタイプではこの領域の皮質の厚みと面積と、ADHDの症状のひとつである「作業記憶の苦手さ」とに、有意な関係があることがわかったとしている。
さらに、この成果が国際的に応用可能かどうかを検討するため、国際大規模データベースからADHD児83人と、年齢、IQがマッチした定型発達児115人の脳画像データを参照。同様の解析を実施したところ、73%の精度で両者が識別されることを確認したという。
これらの結果から、今回考案した検査手法が将来国際的なADHDの診断指標として応用できる可能性が示唆された。研究グループは「女児より有病率が高いことから男児を対象としたが、今後は女児、幼児から成人までの幅広い年齢層、知的障害を有する方など対象を拡大していく」と述べている。
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・科学技術振興機構 共同発表