末梢血白血球の中でも稀な好塩基球に着目
東京医科歯科大学は11月28日、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の動物モデルを用いて、COPDに特徴的な肺傷害(肺気腫)形成に、希少血球細胞のひとつである好塩基球が重要な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科・免疫アレルギー学分野の烏山一教授と統合呼吸器病学分野の柴田翔大学院生、宮崎泰成教授の研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「米国科学アカデミー紀要」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
COPDは慢性気管支炎と進行性の肺気腫の合併を特徴とする呼吸器の疾患で、全世界で約2億人が罹患し、死亡原因第4位となっている。たばこの煙などの有害物質を長期に吸入することで発症し、禁煙後も進行して咳、痰、呼吸困難などの症状を引き起こす。同じく気道閉塞を特徴とする気管支喘息に関しては病態解明が進み、免疫グロブリンE(IgE)やサイトカインを標的とした抗体医薬が開発されているが、COPDの病態、特に肺気腫形成に関しては、発症メカニズムの解析ならびに治療法開発が遅れているのが現状だ。
好塩基球は、末梢血白血球中の1%未満しか存在しない稀少な細胞集団。近年の研究により、好塩基球はアレルギー炎症、寄生虫感染防御などに重要な役割を果たしていることが明らかとなっていた。しかし、COPDの病態において、好塩基球がどのような役割を果たしているのかは、わかっていなかった。
間質マクロファージが産生するMMP-12が肺組織を障害
今回の研究では、マウスの鼻に酵素の一種であるエラスターゼを注入し、ヒトのCOPDに類似した肺気腫を引き起こした。その際、血中を循環しているさまざまな白血球がまず肺に侵入し、炎症を誘導するが、研究グループは、白血球のなかでも特に好塩基球に注目。検証の結果、好塩基球は肺に入ってくる白血球の1%にも満たないにも関わらず、好塩基球を生体内から除去したマウスでは肺気腫が起きなかった。これにより、好塩基球が肺気腫形成に大きく寄与していることが判明した。
好塩基球は、さまざまな物質を分泌することが知られており、そのひとつである「IL-4」を産生できないマウスを調べたところ、肺気腫が起こらなかった。つまり、好塩基球の産生するIL-4が肺気腫の形成に深く関わっていることが示唆された。そこで、好塩基球由来のIL-4がどのようにして肺気腫形成に寄与しているのか調べたところ、肺に侵入してきた白血球の一種「単球」が好塩基球由来のIL-4の作用を受けて、間質マクロファージと呼ばれる細胞に変身し、その間質マクロファージが産生するタンパク分解酵素「MMP-12」が肺組織を傷つけることで、肺気腫が形成されることが明らかとなったという。
これらの研究により、これまで不明であったCOPD初期段階における肺気腫形成のプロセスが、細胞レベルならびに分子レベルで判明した。研究グループは、「ヒトのCOPD形成過程を詳細に解析することで、これまで根本的治療法のなかったCOPDに対する新たな予防法・治療薬の開発が進むものと期待される」と述べている。
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