不明だった脳によるNa+濃度の感知の仕組み
基礎生物学研究所は11月30日、マウスを用いた研究により、食塩の過剰摂取によって体液中のナトリウム濃度が上昇すると、脳内のNa+濃度センサーであるNaxがこれを感知し、その結果、交感神経の活性化を介して血圧上昇が起こることが初めて示されたと発表した。この研究は、同研究所の野田昌晴教授(総合研究大学院大学教授、東京工業大学教授(併任))らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Neuron」オンライン版で公開されている。
画像はリリースより
高血圧は、日本の成人のうち約4300万人が罹患していると試算され、食塩の過剰摂取が原因となることは良く知られている。その仕組みとして、体液中のナトリウム(Na+)濃度が上昇することによって交感神経系が活性化し、その結果として血圧が上がるという説が有力となっている。しかし、脳がどのようにしてNa+濃度を感知し、その情報をどのような仕組みで交感神経まで伝えられているのかは不明だった。
Nax欠損マウスではNa+濃度が上昇しても血圧上昇を起こさない
研究グループでは、これまでに細胞外液のNa+濃度上昇に応じて開口するNaチャンネルであるNaxを見いだし、その機能や生理的役割を明らかにしてきた。今回、Nax遺伝子を欠損したマウスは、野生型マウスと異なり、体液中のNa+濃度が上昇しても交感神経の活性化による血圧上昇を起こさないことを発見。さらに、神経活動の活性化や抑制を光によってコントロールする技術などを用いて、Naxが感知したNa+濃度上昇のシグナルが交感神経の活性化につながる仕組みを分子レベルおよび神経回路ネットワークレベルで解明したという。
これらの成果は、Na+濃度と血圧上昇をつなぐ脳内の仕組みを詳細に明らかにしたものであり、高血圧に対する新しい治療法の開発に役立つものと期待される。また、高血圧全体の約90%を占めるにもかかわらず、原因が特定されていない本態性高血圧の発症の仕組みを理解するための重要な一歩になるとしている。
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・基礎生物学研究所 プレスリリース