亜急性期での有効性は確認されていた細胞移植単独治療
慶應義塾大学は11月30日、Notchシグナル阻害剤で前処理したヒトiPS細胞から樹立した神経幹/前駆細胞を移植することのみで、運動機能を回復・維持させることに成功したと発表した。この研究は、同大医学部生理学教室の岡野栄之教授、整形外科学教室の中村雅也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際幹細胞学会(ISSCR)の公式ジャーナル「Stem Cell Reports」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
これまで、研究グループの行ったヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞移植単独では、 亜急性期(受傷後数週間以内)における脊髄損傷に対しては有効性が確認できた一方、慢性期の脊髄損傷に対しては有効性が確認できなかった。また、今日にいたるまで細胞移植治療単独で機能改善が得られたという報告は世界でも少なく、慢性期の損傷脊髄における細胞移植単独は効果がなく、亜急性期を逃すと神経幹細胞移植は行えない、あるいは行っても効果が得られないとされている。
GSIで前処理したヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞を移植
今回、研究グループでは、細胞間の情報の伝達経路のひとつであるNotchシグナルが働かないようにして神経幹/前駆細胞を前処理すると、ニューロンへと分化するだけでなく、軸索の再生を促す作用もあることに着目。Notchシグナルを阻害するGamma-secretase inhibitor(GSI)で前処理したヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞を、慢性期の損傷脊髄へ移植したところ、再生や運動機能回復が困難な状況においても、軸索の再生・伸長が起こり、さらに再髄鞘化も誘導することを発見したという。
今回の研究により、受傷後長時間が経過した慢性期の脊髄損傷患者が、運動機能を回復・維持できる可能性が示唆された。研究グループは、「ヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞移植の臨床応用を実現させる上で、これまでにない非常に大きな成果であるといえる」と述べている。
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