上眼瞼結膜の一部をRNA-seq法で解析
順天堂大学は11月28日、難治性かつ慢性重症のアトピー性角結膜炎患者の結膜組織の微量サンプルを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行った結果、眼表面の免疫グロブリン遺伝子と黄色ブドウ球菌感染に対する生体防御に関連する遺伝子群の発現が上昇していることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科眼科学の松田彰准教授、海老原伸行教授らの研究グループ(眼アトピー研究室)が行ったもの。研究成果は「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」オンライン版で発表されている。
画像はリリースより
研究グループは、タクロリムス点眼薬治療(4週間以上)が効かない難治性アトピー性角結膜炎患者から治療目的で採取した上眼瞼結膜の一部を、次世代シークエンサーを用いて網羅的遺伝子発現パターン解析(RNA-seq法)を実施。その結果、難治性アトピー性角結膜炎組織において発現が上昇した872個の遺伝子のうち、免疫グロブリン遺伝子が47個、黄色ブドウ球菌に対する生体防御に関わる遺伝子が22個含まれており、難治性アトピー性角結膜炎の病態との関連が強く示唆された。
また、アトピー性角結膜炎の病態との関連について報告のある、アレルギー性炎症関連サイトカイン(IL-4、IL-13、IL-33など)や好酸球、リンパ球、マスト細胞の活性化に関連する遺伝子、組織の瘢痕化に関連する遺伝子(ペリオスチン、テネイシンCなど)の発現上昇も確認。この中には発現量が少ないため従来の方法では検出が困難な遺伝子も含まれており、難治性アトピー性角結膜炎組織における遺伝子発現を網羅的かつ正確に解析するためにRNA-seq法が有効であることが示された。
アトピー性角結膜炎の難治化モデルの仮説を支持する結果に
タクロリムス点眼薬の作用が免疫グロブリン産生をつかさどるリンパ球の活性化抑制であることから、この解析結果は繰り返すアレルゲン刺激がもたらす異所性リンパ器官の異常形成によって、免疫グロブリン遺伝子の発現抑制が困難になっていることを示唆している。さらに、細菌に対する生体防御に関わる遺伝子群の発現の上昇もあることから、アトピー性角結膜炎が難治化するメカニズムにおいて、アレルゲンによる慢性刺激によって眼表面の生体防御機構が過剰に再構築されたことを意味している。
研究グループは以前より、「繰り返すアレルゲン刺激による異所性リンパ器官の異常形成が炎症組織局所での免疫グロブリン産生を引き起こしている」というアトピー性角結膜炎の難治化の病態モデルを提唱しており、今回の研究も、その仮説モデルを支持する結果となった。今後は、眼表面組織での免疫グロブリン産生抑制による異所性リンパ器官の形成阻止をターゲットに、難治性アトピー性角結膜炎モデルマウスの開発を進め、新規治療法の開発に繋げていくという。また、黄色ブドウ球菌感染とアトピー性角結膜炎の慢性化および難治化のメカニズムの関連を明らかにするため、黄色ブドウ球菌由来の毒素に着目した研究を展開するとともに、眼表面の細菌叢への介入といった治療法の可能性を実験的に検証していく予定としている。
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・順天堂大学 プレスリリース