aiboの特長を通じ、子どものこころの発達過程を分析
国立成育医療研究センター(NCCHD)は11月29日、ソニーの自律型エンタテインメントロボット「aibo」による小児医療現場における長期療養中の子どもに与える癒し効果の検証を2018年12月より開始すると発表した。
画像はリリースより
近年ロボットを通じた子どもの心の発達心理学研究(特に認知、意図、意思、心の理論)が進んでいる。生まれて数か月の乳児は人に興味をもち、顔や身体の形の特長、動き方に注目し人との特別な関係性を築く。このステップが対人コミュニケーション発達に大きく影響するとされてきたが、ロボットにおいても、乳児との相互作用や人らしい形態などを付与すると、その視線を追従しようとすることが明らかになってきた。
この結果は、ロボットがインタラクティブな存在であることを子どもに経験させることで、ロボットからの学習効果を引き出すことへの期待をもたらしている。特にメンタライジング(人の心を推し量る課題)の発達は社会において重要であり、このような発達要素が人の動きをみて反応し行動するaiboの特長を通じて、子どものこころの発達過程を分析的に知ることができる可能性を探る、癒し効果の検証となる。しかし、医療におけるロボット技術応用に関する期待が高まる一方、小児においてはロボット技術の汎用性が狭く、まだ十分に臨床応用されていない。
「動物療法」と同様の癒し効果が得られる可能性
研究グループは、aiboを慢性疾患で長期入院を要する子どもたちへのリエゾン医療として導入し、子どもと家族の癒し効果を生物・心理・社会的手法を用いて質的・量的な検証を行う。用いるaiboは研究に向けた特別仕様の機体で、市販のaiboと異なり、被験者の顔写真等の個人を特定可能なデータは同センター内でのみ管理し、クラウド上への保存やソニー側では管理しない。また、aiboが取得したセンサーや認識結果などのデータは、研究分担者が研究上の分析にのみ用いる。なお、実験に用いるaiboの通信機能(電波利用)は必要に応じて制限される。
検証では、aiboからみた子どもの視線追従、共同注意、模倣などを対人コミュニケースキルの発達を月齢別に分析。また、非生命体であるaiboへの愛着形成のプロセスを、参与観察による発話数と情動表出数(ポジティブとネガティブの2方向)など、ストレス下にある子どもの対人コミュニケーション促進に必要な要素を抽出し、aiboによる顔認識、音声認識、タッチング(なでる、叩く、触る)の種類・回数の入力データなども分析に利用する。
2018年4~5月に実施したパイロット・スタディの結果では、子ども同士の社会的相互作用の促進(特に社会的な側面からみた自律性、配慮性など)や、表出が困難なケースにおける緊張緩和・リラクゼーション効果、孤立しがちな親子関係性への介入への期待、介在による三項関係の促進(共感性、共同注意力の促進、他者への参照など)、aiboとの定期的コミュニケーションによる情緒交流、気分転換、癒しの効果が期待される結果がすでに出つつあることなどが確認された。
研究グループは、「今後、心理社会的な面において、支援を必要とする現場へのロボットによる介在療法の導入の可能性を示すことで、動物療法の必要性を認識しながらも導入に至らない小児療養施設・児童福祉施設(児童相談所一時保護所など)であっても同様に、子どもらの孤独と不安に寄り添う癒しの効果がひろがることを期待している」と述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース