■全国展開目指し、仕組み確立へ
国立がん研究センターは、多施設の医薬品情報(DI)室に蓄積された質疑応答事例を共有してデータベースを形作り、その巨大な情報源から人工知能(AI)を使って薬剤師が的確な情報を容易に引き出せるシステムを構築する。木村情報技術が持つAI技術や、同社が開発した質疑応答登録システムを応用し、最適なシステムや運用のあり方について共同で研究を進める。当初は3病院で取り組みを開始するが、参加病院を段階的に増やしてデータベースを拡充する計画。臨床現場での実証も併せて行う。3年後をメドに全国の他施設でも活用できるようにしたい考えだ。
研究に取り組む医療機関は、国立がん研究センター東病院、同中央病院、国立国際医療研究センター病院の3病院。今年12月には国立循環器病研究センター病院が加わる見通し。
これらの病院のDI室に蓄積された質疑応答事例を集めたデータベースをクラウド上に構築する。1万5000件以上の事例が集まると見られ、そこから重複事例の削除や質の評価を行う予定。事例数は1万件以上に達する見込みだ。
その後、日常的に発生する質疑応答事例も、木村情報技術が開発したシステムを使いデータベースに随時追加する仕組みを設ける。
来年には、国立成育医療研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立長寿医療研究センターの各病院にも段階的に加わってもらい、幅広く質疑応答事例を収集したい考え。その先は、全国各地の国立病院にも輪を広げる計画だ。
各病院のDI室には、院内の医師や看護師、薬剤師らから受けた医薬品に関する質問に対して、書籍や文献、製薬会社から得た情報に基づき返答した事例が集積されている。様々な病院に参加してもらうことで、各領域を幅広く深く網羅した巨大な質疑応答データベースの構築を目指す。
AIを使って、構築したデータベースから薬剤師が的確な回答を容易に引き出せるシステムの構築や運用も進める。医薬品に関する質問を受けた薬剤師が、調べたい内容をスマートフォンやパソコンを使って音声や文字で入力すると、集積された質疑応答事例の中からAIが最適なものを選んで提示するもの。従来のように単語を連ねて検索するのではなく、人と対話するような自然言語で入力すると、AIが質問の意図を的確に捉えて回答を導き出す。木村情報技術が開発したシステムを活用する。
3年かけて基盤システムの確立や医療現場での実証に取り組む。国立高度専門医療研究センターの各病院や国立病院のグループ内で基盤を固めた後、それ以外の病院や薬局の薬剤師の利用や事例登録を可能にしたい考え。実現すれば、DI室に薬剤師を配置できていない中小病院や1人薬剤師の薬局にとって、業務の大きな支えになる。
質疑応答事例の信頼性を保証する仕組みをどのように作るかが、今後の課題だ。引き出した情報をどう活用するかは、最終的に薬剤師個々の判断に委ねられるが、かといって質の保証をおろそかにはできない。多数の薬剤師が「いいね」ボタンで各質疑応答事例の良し悪しを評価する方法など、最適な仕組みを検討したいという。
併せて、質疑応答事例だけでなく、製薬会社が発信する情報や添付文書情報などをデータベースにどう組み込んでいくかも検討したい考えだ。