avocatin Bが、がん細胞の脂肪酸代謝を阻害し増殖を抑制
順天堂大学は11月21日、アボカドから抽出した成分の脂肪酸avocatin Bが白血病がん細胞の脂肪酸代謝を阻害してがん細胞の増殖を抑制すること、さらに、白血病化学療法薬(抗がん剤)との併用により抗がん効果を高めることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科臨床病態検査医学の田部陽子特任教授らと、米国MDアンダーソンがんセンターのマリナ・コノプレバ教授、カナダゲルフ大学のポール・スパヌオロ博士らとの共同研究によるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版にて公開された。
画像はリリースより
白血病を含むがんは高齢者に多発する疾患であるが、治療の選択肢や抗がん剤投与量が制限され、十分な治療効果を得ることができない場合が多くある。そのため、高齢患者に適用できる副作用の少ない新しいがん治療戦略が求められていた。白血病がん細胞は、骨髄微小環境の中で増殖したり、抗がん剤に対する抵抗性を獲得したりする。研究グループはこれまでに、白血病がん細胞が加齢に伴って増加する骨髄脂肪細胞との相互作用によって、脂肪酸代謝を亢進させ、骨髄内で独自のエネルギー代謝を行うことで抗がん剤への耐性を獲得することを見出していた。
一方、最近見つかったアボカド由来の成分の奇数炭素脂肪酸であるavocatin Bは、偶数炭素脂肪酸と比較して酸化効率が低いため、競合作用によって細胞の脂肪酸代謝を阻害する物質で、生体に副作用が極めて少ないことが特徴であるとされていた。
avocatin Bが、高齢者のがん代謝制御治療につながる可能性
研究グループは、高齢者の骨髄中には、がん細胞のエネルギー源となり得る脂肪酸が豊富に存在することから、脂肪酸代謝を阻害するavocatin Bが、がん細胞のエネルギー代謝の阻害剤になる可能性があると推測。そこで、今回の研究では、avocatin Bが新しい白血病治療薬となり得る可能性を検証するために、白血病がん細胞の代謝への影響と抗がん効果(抗腫瘍効果)について調べた。まず、細胞計数法と細胞周期解析を用いて、avocatin Bが単独培養状態の急性骨髄性白血病がん細胞の細胞死誘導や細胞増殖を阻害することを確認。次に、骨髄微小環境下を再現するため、骨髄脂肪細胞と白血病がん細胞を共培養した状態でのavocatin Bの効果を比較検討した。
その結果、骨髄脂肪細胞との共培養によって、白血病がん細胞に対するavocatin Bの細胞死誘導および細胞増殖阻害効果はいずれも減弱。このとき、骨髄脂肪細胞との共培養下では、avocatin B投与後に白血病がん細胞の脂肪酸代謝が阻害される一方、遊離脂肪酸や糖の取り込みが増強し、解糖系代謝が高まることが質量解析法により明らかになった。
今回の研究で、骨髄微小環境において、白血病がん細胞が脂肪酸代謝阻害に対しさまざまな適応機構を作動させ、バイパスとなる代謝経路を活性化させることにより、がん細胞が生き残ることが判明した。これは、抗がん剤を単独で用いた場合に生じるがんの薬剤耐性機構の一端を示すものだ。さらに、脂肪酸代謝阻害剤のavocatin Bを抗がん剤と組み合わせた際に、相乗的な抗がん効果を発揮することも発見した。
avocatin Bの脂肪酸の代謝制御は、従来の化学療法薬の併用療法として白血病領域にとどまらず、高齢者のがん代謝制御治療に活用できる可能性があることが明らかとなった。また、脂肪酸代謝は、がん微小環境で生き残るがん細胞が依存する場合があることが知られており、全ての年齢層で求められるがんの再発予防治療薬としての効果も期待できる。今後はモデル動物などを用いて、脂肪酸の代謝制御による生体内での抗がん効果を確認していく予定としている。
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・順天堂大学 プレスリリース