重症化のメカニズムや有効な治療法が確立されていないインフルエンザ
医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)は11月20日、通常、交感神経終末から放出されることが知られている神経ペプチドNPYが、インフルエンザウイルス感染症では、肺の貪食細胞から大量に産生されることを見出したと発表した。この研究は、同研究所ワクチン・アジュバント研究センター(CVAR)感染病態制御ワクチンプロジェクトの今井由美子プロジェクトリーダー(クロス・アポイントメント:大阪大学蛋白質研究所感染病態システム研究室特任教授(常勤))らの研究グループが、大阪大学蛋白質研究所細胞システム研究室の岡田眞里子教授らと共同で行ったもの。研究成果は「Nature Microbiology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
これまでにインフルエンザが重症化するメカニズムや重症化を抑える有効な治療法は確立されていない。また、神経系と免疫系が相互に連関していることは知られていたが、神経ペプチドがインフルエンザウイルス感染症の病態にどのように関わっているかは十分解明されていなかった。
神経ペプチドNPYは、肥満、糖尿病、喘息などの病態に関わっていることが知られている。またNPYの受容体阻害薬は、抗肥満薬として開発が進められている。しかし、NPYとその受容体がインフルエンザの重症化にどのように関わっているかは不明だった。一方、免疫応答など生体の恒常性の維持に必須のサイトカインのネガティブフィードバック因子であるSOCS3が、強毒型のH5N1インフルエンザウイルス感染症や、エボラ出血熱などの病態に関わっていると報告されていたが、神経ペプチドとの関わりは明らかにされていなかった。
NPYが重症化するインフルエンザのBMとなる可能性
今回研究グループは、重症インフルエンザウイルス感染症に罹患したNPY遺伝子が活性化するとGFP蛍光を発現するマウスを用いて、インフルエンザウイルスの感染に伴い肺の貪食細胞から神経ペプチドNPYが大量に産生されることを見出した。また、NPYとその受容体を貪食細胞で欠損させたマウスはインフルエンザの重症化が抑えられ、感染後の生存率が改善することが判明した。そのメカニズムとして、ウイルス感染によってNPYとその受容体Y1R軸が活性化されると、サイトカインのネガティブフィードバック因子であるSOCS3の誘導を介して、ウイルス増殖の亢進と肺組織の過剰炎症が誘導され、インフルエンザが重症化することが明らかになった。これらのことから、貪食細胞におけるNPY-Y1R-SOCS3経路が、重症インフルエンザの新しい治療標的となる可能性が考えられるという。
研究グループは、「NPYはインフルエンザの重症化のバイオマーカーとして有用であると思われ、これを指標にインフルエンザの重症化が予測される患者に対して、重症化を阻止するような予防医療の確立に繋がる可能性が示唆された。また、重症インフルエンザの新しい治療法の開発につながることが期待される」と述べている。
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