凝固カスケードの中心的な因子である凝固因子Xa
東京医科歯科大学は11月19日、凝固因子Xaの活性を簡便に評価する方法を開発したと発表した。同研究は、同大大学院医歯学総合研究科循環生理解析学分野の笹野哲郎准教授と医学部附属病院検査部の濱田里美臨床検査技師らと、循環制御内科学分野の平尾見三教授、難治疾患研究所生体情報薬理学分野の古川哲史教授らとの共同研究によるもの。文部科学省科学研究費補助金ならびに東京医科歯科大学—ソニー研究サポートファンドの支援のもとで行われた。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版で発表された。
画像はリリースより
血液凝固は、多くの凝固因子が連続的に活性化する「凝固カスケード」と呼ばれる反応系によって進む。凝固因子Xaは、この凝固カスケードの中心的な因子。これまで、Xa活性の測定には、合成基質を用いた検査を行う必要があり、これまで簡便な検査法はなかった。また近年、抗凝固薬としてXa阻害薬が広く使用されているが、その効果を通常の臨床検査で評価することは困難であり、抗Xa活性検査を行う必要があった。
Xa活性検査や抗Xa活性検査は、臨床の場ではほとんど使用されておらず、Xa阻害薬を投与する際も、年齢や腎機能などの指標をもとに、内服用量を決定する。毎回の血液検査をする必要がなく、安定して効果が得られるのは大きな利点である一方、Xa活性を含む血液凝固能にも個人差があると考えられているにも関わらず、凝固能の個人差や、Xa阻害薬の薬効の個人差を考慮した治療などは行われていなかった。
誘電コアグロメーターでXa活性と全血凝固能の評価が可能に
研究グループはソニーの支援のもと、通常の採血による全血検体から誘電コアグロメーターを用いて、Ca再加法による血液凝固反応における誘電率変化を計測。その微分波形からXa活性と相関する指標を探索した。その結果、凝固開始からピークに到達する点までの時間(MAT)が、合成基質法によるXa活性と最も高い相関を示すことが判明。さらに、Xa選択性の異なる3種類の抗凝固薬(未分画ヘパリン・低分子ヘパリン・Xa阻害薬)を血液に加えて誘電コアグロメーターで評価すると、誘電率変化の微分波形は薬により異なったパターンを示し、Xa選択性が高い薬剤ではMATがより延長したという。これらの抗凝固薬を加えた血液サンプルで、抗Xa活性を測定し、MATとの相関を検討した結果、全ての薬剤で抗Xa活性とMATは共通の相関を示した。これにより、健常者血液においてXa活性を評価できること、抗凝固薬を加えた血液において抗Xa活性を評価できることが判明。臨床の場での簡便なXa活性評価が可能になったとしている。
今回の研究成果により、採血した血液サンプルを誘電コアグロメーターで検査することで、簡便に患者のXa活性と全血凝固能が評価できるようになることが期待される。今後、これらの個人差をもとに血栓形成や出血のリスクを考え、内服治療を行うことができる。将来的には、患者のXa活性評価を元にした抗凝固療法の適応決定、Xa阻害薬の薬効の定量評価を元にした抗凝固薬の用量決定などが可能になる。患者個々の状態を精密に評価し、それに基づいてきめ細かく治療を行うプレシジョン・メディシン(精密医療)への応用が期待される。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース