脳発生・神経発生研究を発展させた子宮内電気穿孔法
名古屋大学は11月19日、脳発生・神経発生学の研究に汎用される子宮内電気穿孔法(IUE)によって、免疫系細胞であるミクログリアが異常な分布パターンを示すことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科細胞生物学分野の宮田卓樹教授、服部祐季研究員の研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「eNeuro」電子版に公開された。
IUEは、非常に細いガラス管を用いて、子宮内の胎仔の脳室内にプラスミドDNAやRNAを注入し、外部から局所的に電気刺激を与えることによって脳内の神経系細胞に遺伝子を導入する手法であり、脳の成り立ちや機能を解明するにあたり非常に有用なツールだ。このIUEの確立により、生体内において目的の遺伝子を過剰に発現させたり、抑制したりすることが簡便にできるようになり、脳発生・神経発生研究は飛躍的に発展した。
ミクログリアは脳を構成する全細胞のうち、割合としてはごく少数だが、広範囲に移動するため周囲の多数の細胞と接することができる。また、未熟な神経系細胞の成熟を促したり、細胞を取り込んで分解したりすることで、その数を制御するなどの機能を持っていることが明らかになりつつある。
TLR9のDNA認識によってミクログリアが脳室面近くに集積
今回の研究では、正常の脳では脳壁全体にわたって均一に存在しているミクログリアが、IUEの「プラスミドDNAを脳室に注入する」というステップによって、脳室面の近くに並ぶように集積する様子を確認。この変化は、ミクログリアが発現するToll様受容体9(TLR9)のDNA認識によって引き起こされることが判明した。また、TLR9に対する拮抗薬のODN2088をプラスミドDNAと同時に脳室内に注入することで、ミクログリアの異常な集積は改善され、IUEをおこなった脳でもミクログリアのリアルタイムな動態の観察が可能となったという。
画像はリリースより
これまでの脳発生研究の多くは、神経系細胞を対象に進められ、数の少ないミクログリアの役割や存在意義については、未だ不明な点が多く残されている。研究グループは、「IUEが確立されてから現在に至るまで、その技術的な懸念については深く議論されていなかったため、本研究成果が脳発生・神経発生学の研究分野界に一石を投じるとともに、さらなる研究の発展に大きく役立つものと考えられる」と述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース