細胞吸引の自動化など要望が高まる1細胞質量分析法
科学技術振興機構(JST)は11月19日、細胞の中の物質を容易に高精度で吸引する装置の開発に成功したと発表した。これは、産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「共焦点画像1細胞創薬支援システム」の成果。同課題では、理化学研究所生命システム研究センター(QBiC)の故・升島 努教授らの研究成果を基に、2014年8月から2017年3月にかけて横河電機株式会社に委託し、同社計測事業本部ライフサイエンスセンター(現・ライフイノベーション事業本部バイオソリューションセンター)にて、企業化開発を進めていた。
画像はリリースより
1細胞質量分析法は、升島教授らによって発明された技術。細胞を顕微鏡で観察しながらその変化を画像で追跡し、注目する細胞内小器官を見たい時にナノスプレーチップで取り出すことで、ほぼそのまま質量分析を行うことができる。同手法は、疾患の分子機構の解明や細胞1つでの診断や個別化医療につながるものとして注目されている。
しかし、従来の方法では、細胞を一つひとつ手動で吸引するため、精度が作業者の熟練度に左右される、大量の細胞を処理するのに不向き、などの問題があった。そのため、1細胞質量分析法の実用化のために、細胞吸引の自動化や処理効率の向上に対する要望が高まっていた。
PC上でワンクリック、手作業の4倍強の検体取得が可能に
研究グループは従来製品の問題点を克服するため、「細胞の画像を解析し、解析の結果に基づいて吸引対象を選択する技術」「選択した細胞の吸引したい部位を高精度で捕捉する技術」「ワンクリックで吸引を行うソフトウエア」、これら3つの技術を組み合わせて、自動吸引装置を開発した。
同装置は、ユーザーがあらかじめ定義した条件に一致する細胞を装置が選び出し、指定された場所を自動で吸引する。従来、熟練者が顕微鏡下で時間をかけて行っていた作業をパソコン上でワンクリックで行うことができ、1時間あたり22検体と手作業の4倍強を取得し、狙った細胞の特定部位を高精度で確実に、かつ高効率に取り出すことが可能となった。
吸引の自動化により、再現性の高い検体が取得できるようになったことで、1細胞質量分析法の実用化や新薬の開発、個別化医療など幅広い分野での利用が期待される。また、質量分析以外では、細胞を丸ごと吸引してのmRNA解析や取得した検体を細胞へ注入することにも応用が可能であり、幅広い分野での貢献が期待されるとしている。
▼関連リンク
・科学技術振興機構(JST) プレスリリース