薬剤の副作用としてIgEの関与しない偽アレルギーが問題に
順天堂大学は11月15日、薬剤の副作用である偽アレルギーを抑えるメカニズムを解明する研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの高森絢子博士研究員、伊沢久未助教、北浦次郎先任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」電子版にて公開されている。
画像はリリースより
一般的に、即時型アレルギーが発症するためには、花粉、食物などのアレルゲンに対するIgE抗体が産生され、マスト細胞のIgE受容体に結合することが必要だ。次にアレルゲンがIgE抗体に結合してIgE受容体を刺激することにより、マスト細胞は活性化してヒスタミンなどの細胞内顆粒を放出(脱顆粒)することで、アレルギー症状を引き起こす。このように2段階のステップを経て、即時型アレルギーが誘導される。
他方、抗生剤や麻酔薬などのある種のカチオン性薬剤は、マスト細胞の受容体に直接結合してマスト細胞を活性化し、IgEの関与する即時型アレルギーと同じような症状を引き起こす。この現象はIgEの関与しない偽アレルギーと呼ばれて、薬剤の副作用として大きな医療問題となっている。
CD300f欠損マウスの皮膚で偽アレルギー反応が著しく悪化
研究グループはこれまでに、免疫受容体CD300fがマスト細胞のIgE受容体シグナルを抑制してIgEの関与する即時型アレルギーを抑えることを明らかにしていた。そこで今回、CD300fがIgEの関与しない偽アレルギーも抑えることができるかもしれないと考え、その可能性の検証と生体内メカニズムの解明を目指したという。
今回の研究では、まずマウスの耳介にカチオン性薬剤(抗生剤シプロフロキサシン)を皮下注射して、偽アレルギー反応を誘導した。カチオン性薬剤はマウス皮膚のマスト細胞の受容体に直接作用して、即時にマスト細胞を活性化(脱顆粒)させる。脱顆粒により放出されたヒスタミンは血管透過性を上昇させるため、しっぽに静脈注射された色素(青色)が耳介に漏出。この色素量を定量化して皮膚の偽アレルギー反応を評価することができる。野生型マウスとCD300f欠損マウスの耳介にシプロフロキサシンを注射したところ、CD300f欠損マウスの皮膚の偽アレルギー反応は著しく悪化したという。
また、CD300fのリガンドである脂質セラミドの存在下でマウスやヒトの培養マスト細胞をカチオン性薬剤で刺激すると、マスト細胞の脱顆粒が抑えられることが判明。これにより、CD300fとセラミドの結合がマスト細胞の受容体シグナルを抑えることが明らかになった。さらに、野生型マウスにセラミドを前投与するとCD300fリガンドの増加によりCD300fの機能が促進し、皮膚の偽アレルギー反応を抑制。CD300fとセラミドの結合は偽アレルギーを抑える生体内メカニズムであることを裏付けたとしている。
今回の研究は、薬剤による偽アレルギー反応を抑えるメカニズムを解明するものであり、CD300fはIgEの関与するアレルギー反応だけでなく、IgEの関与しない偽アレルギー反応を抑える鍵となることも明らかになった。研究グループは今後も引き続き、CD300fを標的としたセラミドによる予防・治療法の開発を進めていくとしている。
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