さまざまな疾患につながるプロテアソームの破綻
東北大学は11月1日、筋肉の幹細胞であるサテライト細胞の維持において、タンパク質分解系であるプロテアソーム系が必須であることを明らかにしたと発表した。この研究は、日本学術振興会特別研究員SPD(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)の北嶋康雄博士が、同大大学院医工学研究科健康維持増進医工学分野の永富良一教授(兼大学院医学系研究科運動学分野)、同大大学院医学系研究科神経内科学分野の青木正志教授、鈴木直輝助教らと共同で行ったもの。研究成果は、国際幹細胞学会(ISSCR)が発行する科学誌「Stem Cell Reports」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
筋肉の再生に欠かせないサテライト細胞を正常に保つ仕組みの解明は、筋肉そのものを正常に保つメカニズムの解明につながると考えられている。また、健康な細胞で、不要なタンパク質を分解する機構のひとつがプロテアソームと呼ばれる機構だ。プロテアソームの破綻は、さまざまな疾患につながることが最近の研究で示されている。
タンパク質分解系が筋肉の再生不全を引き起こす
今回の研究グループは、サテライト細胞とプロテアソームによるタンパク質分解との関係に着目。最初にプロテアソームを構成するRpt3というタンパク質の欠損をサテライト細胞でのみ誘導できるマウスを作出した。このRpt3を欠損したマウスでは、プロテアソームによるタンパク質分解が抑制され、Rpt3欠損を誘導してから約2週間でサテライト細胞が減少し、筋肉の再生が正常に行われないことが判明。さらに、培養細胞を用いて解析した結果、Rpt3の欠損によりサテライト細胞の増殖および筋分化が抑制され、細胞死が誘導されることが明らかになった。
また、この増殖抑制や細胞死の際に、細胞増殖などに関わることが報告されているp53というタンパク質の過剰な活性化が起こっていることを発見。そこで、p53の機能を人為的に抑制すると、サテライト細胞の増殖抑制が軽減されたことから、タンパク質分解系の抑制により引き起こされるサテライト細胞の機能不全にp53が関与していることを突き止めた。これまでに、タンパク質分解系の不全やp53は老化との関連も指摘されており、今回の発見は、筋肉の幹細胞であるサテライト細胞とタンパク質分解系、さらには老化をつなぐ研究の端緒になると考えられる。
今回の研究では、タンパク質分解系が筋肉の幹細胞を維持するために必須であり、それらの破綻は筋肉の再生不全を引き起こすことを明らかにした。これらの成果は、幹細胞研究の基礎的な理解と再生医療への応用が期待されると研究グループは述べている。
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