求められるmiRNAによる組織特異的な疾患発症機序の解明
大阪大学は11月8日、大規模ゲノムワイド関連解析手法とマイクロRNA組織特異的発現カタログデータを統合するインシリコ・スクリーニング手法を開発し、マイクロRNAが組織特異的に作用することで数多くのヒト疾患の発症に関与していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の岡田随象教授(遺伝統計学)らの研究グループによるもの。研究成果は「Nucleic Acids Research」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、自己免疫疾患や悪性腫瘍など多くのヒト疾患においてマイクロRNAの関与が注目され、バイオマーカーや創薬対象としての研究が進展してきた。しかし、ヒトゲノム配列上でマイクロRNAをコードする領域が非常に短いことや、周囲に多数の遺伝子が存在する複雑なゲノム構造などから、疾患ゲノム情報を活用して網羅的にマイクロRNAの関与を示すことは困難だった。
一方、マイクロRNAのヒト細胞での発現情報をカタログ化した理化学研究所のFANTOM5コンソーシアムの研究結果では、マイクロRNAの発現量が組織に依存して著しく異なり、組織特異的に機能することが判明していた。組織特異的なmRNA発現情報やエピゲノム情報と、ゲノムワイド関連解析の結果の統合解析により、多因子疾患の病態がこの数年で次々に明らかになってきたことから、マイクロRNAによる組織特異的な疾患発症機序の解明が求められていた。
関節リウマチ発症に関わるmiRNAを同定
研究グループではこれまでに、ゲノムワイド関連解析の結果とマイクロRNA-標的遺伝子ネットワークをスーパーコンピューター上で統合する、データ解析手法を開発。今回、解析対象を50万人49疾患の大規模ゲノムワイド関連解析へと広げ、さらにFANTOM5グループが構築した179のヒト細胞における網羅的マイクロRNA発現情報を組み入れる、網羅的なマイクロRNAのインシリコ・スクリーニング手法MIGWAS(miRNA enrichment in GWAS)の開発に成功した。このMIGWASの開発により、疾患の発症に関与するマイクロRNAの同定に加え、どの組織でどのマイクロRNAが働いているかが明らかとなった。例えば、バセドウ病、全身性エリテマトーデス、クローン病等の自己免疫疾患の発症に関与するマイクロRNAは免疫細胞で多く機能しており、心筋梗塞などの冠動脈疾患やLDLコレステロールに関与するマイクロRNAは、脂肪細胞で多く機能していることが示されたという。
臨床サンプルを用いた実証実験では、関節リウマチ患者30名と健常者33名から得られた末梢血単核細胞からマイクロRNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いてマイクロRNAの発現量を網羅的に検討するmiRNA-seq解析を実施。MIGWASの関節リウマチのゲノムワイド関連解析への適用によるインシリコ・スクリーニング結果と、miRNA-seq解析結果を統合することで、hsa-miR-93-5p、hsamiR-106b-5p、hsa-miR-301b-3p、hsa-miR-762という関節リウマチの発症に関わるマイクロRNAの同定に成功した。特に、hsa-miR-762は、免疫細胞で特異的に発現し、かつ関節リウマチ患者群において健常者群と比較して高い発現量を示したことから、関節リウマチの発症を予測するバイオマーカーとしての臨床応用が期待される。
今後の展望について、研究グループは、「さらに多くの疾患でマイクロRNAによる診断や創薬を行う試みに対しても、MIGWASを用いたインシリコ・スクリーニングの活用がバイオマーカーや創薬標的の同定に貢献することが期待される」と述べている。
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・大阪大学 リソウ