胎児心不全の診断に有用なBMの開発を進める国循ら
国立循環器病研究センターは11月7日、胎児が心不全状態になった際に特定のサイトカインが母体血中で変化することを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、国循研究所・再生医療部の三好剛一派遣研究員(元国循周産期・婦人科医師/現三重大学医学部附属病院臨床研究開発センター助教)、細田洋司室長、周産期・婦人科の吉松淳部長、創薬オミックス解析センターの南野直人センター長らの研究チームによるもの。研究成果は、米国の科学誌「American Journal of Obstetrics and Gynecology」に掲載されている。
画像はリリースより
国循では、臍帯血や羊水、母体血を用いた胎児心不全の診断に有用なバイオマーカーの開発を、周産期・婦人科部(病院)、再生医療部(研究所)、創薬オミックス解析センターの共同研究で進めている。これまでの研究から、胎児先天性心疾患や不整脈が原因の心不全において、臍帯血中BNPは重症度に一致して上昇し、胎児超音波解析結果とも良好な相関を示すこと、また羊水中ではNT-proBNPが胎児心不全の病態を反映して高値となることが判明。羊水穿刺は臍帯血穿刺より侵襲性が低く手技も容易であることから、胎児心不全の診断バイオマーカーとして羊水中NT-proBNP値の臨床応用も検討中だ。
TNF-α、VEGF-D、HB-EGFが胎児心不全と特に強く相関
研究グループは、羊水穿刺よりもさらに低侵襲な母体採血において、胎児心不全の診断が可能かどうか検討するため、胎児心不全で変化する母体血中のサイトカインやホルモンの解析を行った。胎児心疾患50例、正常胎児50例のうち、妊娠28~33週に採取された母体血清を用いて、約40種類のサイトカイン関連因子を測定。胎児心疾患症例のうち、胎児超音波検査により6例(心形態異常1例、不整脈5例)が胎児心不全と診断された。
まず、主成分分析を行い、6種類の炎症性サイトカイン・アポトーシス関連因子、5種類の血管新生関連因子が、胎児心不全症例において大きく変動する因子であることが判明。次に多変量解析を行った結果、それらの中でTNF-α、VEGF-D、HB-EGFが胎児心不全と特に相関が強いことが確認された。これら3つを組み合わせた場合の診断精度は、感度100%、特異度80.3%、陽性的中率33.3%、陰性的中率100%(AUC=0.90)だった。一方で、胎児心不全がない場合には、サイトカインやホルモンの測定値に変化は認めなかった。
今回の研究により、胎児心不全により母体血中で変動する因子を特定できたことで、通常の妊婦健診で採取する血液検体から胎児心不全を診断できる可能性を世界で初めて示すことができた。この成果は、少数例での探索的研究であることから、今後さらに多くの症例で胎児心不全診断のバイオマーカーとしての有用性を検証していく必要がある。また、胎児心疾患症例以外でも、例えば胎児治療が必要となるような胎児貧血、胎児胸水、双胎間輸血症候群などの症例では、この方法が応用できる可能性がある、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース