肺がん・大腸がんなどとの関連が報告されているTRIM29
北海道大学は11月2日、扁平上皮がんにおいて、TRIM29と呼ばれる分子ががんの転移を制御するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院皮膚科学教室の柳輝希特任助教、同医化学教室の畠山鎮次教授らの研究グループが行ったもの。研究成果は、米国がん研究学会雑誌である「Cancer Research」に掲載された。
画像はリリースより
扁平上皮がんは、皮膚や頭頸部領域で多い悪性腫瘍のひとつ。初期段階では外科的切除などで根治するが、浸潤がんとなった場合や転移した場合には治療が効きにくくなり、死に至ることも多くある。
TRIMファミリー分子は、多くの細胞機能に関わる分子群であり、そのひとつであるTRIM29分子は、肺がん・大腸がん・膵臓がんなどとの関連が報告されている。一方、皮膚や頭頸部における重層扁平上皮細胞でのTRIM29の機能は解明されていなかった。
TRIM29のノックダウンで細胞内ケラチンの分布が変化
今回、研究グループは、皮膚・頭頸部重層扁平上皮組織と扁平上皮がんにおいて、TRIM29の発現を解析。また、TRIM29発現の有無によって、扁平上皮細胞の遊走・浸潤・転移のしやすさが変化するか検討した。さらに、TRIM29の結合分子を、免疫沈降法と質量分析解析で網羅的に探索した。
その結果、皮膚・頭頸部扁平上皮がんにおいて、DNAのメチル化制御によってTRIM29の発現が抑制されていることが判明。そこで、TRIM29分子の扁平上皮における機能を解明するために、扁平上皮細胞にてTRIM29の発現を抑制(ノックダウン)すると、細胞の遊走・浸潤・転移が促進した。逆に、TRIM29を過剰に発現させると、細胞の遊走・浸潤は低下したという。
次に、TRIM29の結合分子を探索するために、免疫沈降法と質量分析解析をおこなった結果、TRIM29と細胞骨格分子のひとつである「ケラチン」の結合が認められた。また、TRIM29のノックダウンによって細胞内ケラチン分布が変化し、臨床検体でもTRIM29の発現が低い検体ではケラチンの分布異常が認められた。これらのことから、TRIM29分子は、皮膚・頭頸部などの正常の重層扁平上皮でケラチンの正確な分布を制御していると考えられるという。一方、扁平上皮がんではTRIM29発現が低下しており、それがケラチンの分布の異常と細胞遊走・転移能の獲得に寄与していることが判明したとしている。
今回の研究成果は、扁平上皮細胞におけるTRIM29の分子機能を解明したものであり、診断や予後予測のバイオマーカーとしての活用や、治療標的につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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