2017年にはラパマイシンを使った治験もスタートしたFOP
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は11月2日、マウスの培養細胞を用いた進行性骨化性線維異形成症(FOP)に対する薬剤のハイスループットスクリーニング系を構築し、それを用いて2つの候補化合物を見出したと発表した。この研究は、同増殖分化機構研究部門の日野恭介研究員(大日本住友製薬株式会社 リサーチディビジョン 疾患iPS創薬ラボ)、趙成珠研究員、臨床応用研究部門の池谷真准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Stem Cell Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
FOPは筋肉や腱、靭帯などの組織の中など、本来とは異なる場所に骨ができてしまう病気で、200万人に1人程度の割合で罹患し、日本には80名程度の患者がいるといわれている希少難病。これまでの研究により、FOPは骨形成に関わる因子であるBMPの受容体のひとつであるACVR1遺伝子に突然変異が生じることで、ACVR1が過剰に働いてしまうことが原因であることがわかっている。
これまでに研究グループは、患者由来のiPS細胞を使ってFOPに対する治療薬候補物質の選別を行うハイスループットスクリーニング系を立ち上げ、免疫抑制剤であるラパマイシンがFOPによる異所性骨の発生を抑えることができることを見出し、2017年8月からはラパマイシンを使った治験もスタートした。今回はFOP-iPS細胞とは異なるアプローチでハイスループットスクリーニング系を構築し、さらなる候補化合物の探索を試みた。
AZD0530やTAK 165に異所性骨化を抑える効果
FOPの患者ではACVR1に変異が生じており、本来とは異なる刺激で活性化し、BMPのシグナルが働くことがわかっている。この状況により近い細胞の状態を作るために、軟骨形成をするマウス培養細胞であるATDC5にFOP型の変異を持ったACVR1を発現させた。このATDC5はBMPシグナルなどの働きで軟骨分化が亢進するとALPが多く産生されるため、このALPの働きを異所性骨化につながる異常な軟骨分化の指標として測定するハイスループットスクリーニング系を構築した。この系を用いて、4,892種類の化合物の中から、候補化合物を7種類にしぼりこんだ。次に、FOPの患者の細胞から作製したFOP-iPS細胞を用いた実験系で更に絞り込みを行った。
その結果、3種類の化合物(AZD0530、PD 161570、TAK 165)が候補として得られた。FOP-iMSCをマウスに移植し、マウスの体内でFOPの骨化を再現したモデルを用いて、絞り込んだ化合物の効果を評価したところ、2つの化合物(AZD0530、TAK 165)で異所性骨化を防ぐ効果があることがわかり、さらに、TAK165はmTORシグナル経路を調節する作用があり、直接ではないもののmTORシグナルを阻害していることが明らかになった。
今回の研究により、AZD0530やTAK 165にはFOPで生じる異所性骨化を抑える効果があることが判明した。今回見出した化合物は医薬品として市販されているものではないため、2017年に発表し、治験が開始されたラパマイシンのように、すぐに臨床で効果を確認する段階に進められるわけではない。今回の成果について、研究グループは「別の候補物質を提示することで、薬剤開発の可能性を高めるとともに、FOPが起こる分子メカニズムのさらなる解明につながると期待できる」と述べている。
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