不整脈発生も報告されている多能性幹細胞由来の心筋細胞
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は10月30日、マウスの心臓に移植したヒトiPS細胞由来心筋細胞を電子顕微鏡で同定し、ナノ構造の評価に初めて成功したと発表した。この研究は、同研究所増殖分化機構研究部門の羽溪健研究員、米カルフォルニア大学サンディエゴ校の星島正彦博士(元准教授)、CiRA増殖分化機構研究部門の吉田善紀准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
多くの動物実験で、多能性幹細胞から作製した心筋細胞の移植が心疾患に対して有効であることが示されている。その一方で、移植後に不整脈が生じることも報告されており、その一因として、多能性幹細胞から作製した心筋細胞が未熟であることが考えられている。
成熟した心筋細胞には活動電位の変化やカルシウム濃度の変化を効率よく筋収縮に転換する興奮収縮連関があり、T管や2つ組といったナノ構造が重要な役割を果たしている。これらの非常に小さな構造を解析するには、電子顕微鏡による観察が必要となる。しかし、電子顕微鏡画像は倍率が非常に高いため、観察した細胞が宿主の心筋細胞ではなく、移植した心筋細胞であるかどうかを確認することが困難だった。
移植6か月後には移植した心筋細胞にT管や2つ組が形成
そこで研究グループは、近年開発された電子顕微鏡画像で識別できるアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APEX2)を用いて、移植した心筋細胞の識別・評価を実施。健常人由来のヒトiPS細胞の核にAPEX2を発現させ、心筋細胞へ分化誘導した。
このiPS細胞由来心筋細胞を、作製した心筋梗塞モデルマウスに移植し、6か月後にX線顕微鏡で観察したところ、移植した心筋細胞の核が白く表示され、3次元配置の描出に成功した。また、電子顕微鏡で観察すると、移植心筋細胞と宿主心筋細胞が鮮明に識別できたという。移植心筋細胞には宿主心筋細胞と比して未熟ではあるものの、Z帯やM帯といった比較的成熟したサルコメア構造を認めた。さらに、電子顕微鏡の3次元再構成画像により、移植した心筋細胞にT管や2つ組が形成され始めていることも判明した。
今回の研究では、マウスの心臓に移植したヒトiPS細胞由来心筋細胞のナノ構造の評価に初めて成功し、移植6か月後には移植した心筋細胞にT管や2つ組が形成され始めていることが明らかとなった。研究グループは、「このAPEX2を用いる手法は、心筋細胞移植だけではなく、他のiPS細胞由来分化細胞の移植後の観察にも応用することができ、電子顕微鏡を用いた移植細胞のナノ構造の解析に有用であると期待される」と述べている。
▼関連リンク
・京都大学iPS細胞研究所 ニュース