新規治療標的として注目されるHBxとDDB1との結合
東京大学医学部附属病院は10月25日、新規作用機序に基づくB型肝炎ウイルス治療薬候補を同定したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院消化器内科の關場一磨大学院生、大塚基之講師、小池和彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」(オンライン版)にて発表されている。
画像はリリースより
B型肝炎は、全世界で2億5千万人以上が罹患し、毎年約90万人が死亡しているとされており、その克服は世界的な重要課題とされている。B型肝炎の長期予後改善のための治療目標はウイルスタンパクであるHBs抗原の陰性化(Functional cure)だが、既存のB型肝炎治療薬では達成困難であり、新規治療法の登場が強く望まれている。そうした中、ウイルスタンパクHBxと宿主タンパクDDB1との結合を端緒とするウイルス複製の制御機構が徐々に明らかとなり、新たな治療標的として注目されてきた。
原虫による腸炎治療薬としてFDAの認可を有するニタゾキサニド
研究グループは今回、相補型スプリットルシフェラーゼアッセイ技術を応用し、HBxとDDB1との結合阻害剤を簡便に探索できるスクリーニング系を構築し、それによってニタゾキサニドをB型肝炎治療候補薬剤として同定。さらに、ニタゾキサニドが強くルシフェラーゼ活性値を抑制したことから、ニタゾキサニドがHBx–DDB1結合阻害作用を有することが示唆されたとしている。このニタゾキサニドのHBx–DDB1結合阻害作用は、免疫沈降法をはじめとした複数の別の実験で確認できたという。
次に、HBx発現細胞におけるニタゾキサニドの投与によるSmc5の発現回復効果を検証したところ、ニタゾキサニドはSmc5の量を有意に回復。また、ミニサークルDNA技術を用いてウイルスのcccDNAを模倣するDNA分子を作製し、それに対するニタゾキサニドの効果を見たところ、ウイルスRNA転写が有意に抑制された。さらに、ストップコドンを挿入してHBx発現を欠損させた変異型の擬似cccDNAでは、このニタゾキサニドによるウイルスRNA転写抑制効果は失われることから、ニタゾキサニドの効果はHBx依存的であることが確認された。最後に、初代ヒト肝細胞を用いたB型肝炎ウイルス感染系において、ニタゾキサニドはSmc5の発現回復をもたらし、ウイルスRNAをはじめ、ウイルスタンパク、ウイルスDNA、cccDNA量を低下させることを確認した。これらの結果から、ニタゾキサニドはHBxとDDB1結合を阻害することによって、ウイルスRNAをはじめとしたウイルス産物量を有意に抑えるという、既存のB型肝炎治療薬には無い効果を有することが明らかとなった。
ニタゾキサニドは、原虫による腸炎の治療薬として米国食品医薬局(FDA)で既に認可されている薬剤であり、今後のB型肝炎治療薬への転用(ドラッグリポジショニング)が期待される。今後は、研究データをもとに、化合物構造の最適化や動物モデルなどでの検討を加えて、ヒトへの応用の可能性を探っていきたい、と研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース