■薬以外の団体と連携模索
日本製薬団体連合会の手代木功会長(塩野義製薬社長)は、薬事日報のインタビューに応じ、イノベーションの推進と持続的な社会保障制度を両立させるための施策の一つとして、日本が関与したアジア諸国の医薬品市場の育成を挙げ、「日本で早期承認された医薬品がアジア諸国ですぐに販売できる枠組みを整えることができれば、日本市場としての魅力は高まり、企業も新薬開発の再投資に資金を配分できる」と主張した。さらに今年で設立70周年を迎える日薬連が果たすべき役割については、「われわれは薬をキーワードとした業界団体だが、今後はデジタルメディスンや細胞治療、再生医療といった新たなモダリティが登場してくる。国民の健康を支えるためには、薬というキーワードとは違う団体とも連携しなくてはならない時期にきている」と述べ、医療機器や再生医療等製品などを扱う他団体とも協調していく方針だ。
日薬連は、4月に実施された薬価制度の抜本改革で、新薬の特許期間中は原則として薬価を維持する新薬創出等加算の対象品目が大幅に絞り込まれたことについて、イノベーションを推進する見地から強く反対している。手代木氏は、現在の医療保険制度が限界点に達しているとの課題を挙げ、「イノベーションが進むと、従来の社会保障制度の枠組みではカバーしきれない話がどんどん出てくる。治療期間の短縮や寛解に至るような医薬品が持つイノベーションの価値が高く評価され高薬価となったとしても、その医薬品を使用した治療費が国の単年度の会計処理では一時的に非常に高くなってしまうため、薬価引き下げの対象とされてしまう」との問題点を指摘する。
例えば、特例拡大再算定による大幅引き下げを受けたC型肝炎治療薬「ハーボニー」は12週の投与でほぼ治癒を可能にする革新的な医薬品だが、「従来の治療を10年続けた場合と、ハーボニーで治療を受けた場合を比較した時に、費用対効果がはっきりしていれば、1年で支払うのではなく、10年間でお支払いいただくという手立てはなかったのか」との問題を提起。患者視点からイノベーションが高い医薬品について医療費の支払いのあり方を抜本的に見直す必要性に言及した。
医薬品開発から承認までの期間を縮める先駆け審査指定制度や早期承認制度については「踏み込んでくれている」と一定の評価を下しつつも、「アジアの中で新薬を生み出すことができ、品質の高い医薬品を生産できる唯一の国であるにもかかわらず、そのノウハウをアジア全体の共有財産にできていない」と述べ、日本で承認された医薬品をアジアで販売する枠組みを構築すべきと主張。
日本から生まれた新薬や技術力、イノベーションを推進する医薬品承認制度をアジア諸国の医薬品市場に導入し、日本独自に培ってきた方法論や技術論をアジアのスタンダードとして確立できれば、日本の社会保障制度にも好循環が生まれるとした。
その上で、「早期承認制度を進化できれば、開発プロセスにかかるコスト低減や期間短縮が可能となるため、販売高が一定でも研究開発費用を小さくでき、再投資のための利益創出も可能となる。また、日本で承認を取った医薬品をアジアの国でいち早く市場に出すことができれば、その分販売高が上がり、日本市場の国際的なプレゼンスも増す。いろいろなことを組み合わせれば、イノベーションを推進しながら、社会保障制度を維持していくための両立は可能だと思う」と持論を語り、「日本の製薬産業がアジアで優位性を持ち続けられる有効期限は刻々と迫っており、のんびりしているとアジアから必要とされなくなる」と危機感を示した。
一方、日薬連が果たすべき役割に言及。「薬価や研究開発税制、環境問題など医薬品産業全体としての問題を取り扱ってきたが、これまでは薬をキーワードにした業界団体の集合体だった」と振り返った上で、「国民皆保険制度を維持し、イノベーションを推進していくためには、薬というキーワードで活動していない団体との連携が大切になる」との方向性を掲げた。
傘下の地域団体の関西医薬品協会では、医薬品開発受託機関(CRO)や医薬品製造受託機関(CMO)、再生医療等製品を扱う企業が入会しており、「薬を越えて国民の健康に関連するものをどう取り扱っていくかが日薬連にとっても非常に重い課題」とし、業界の垣根を越えた団体との調和を重要なテーマに掲げた。