消化管機能に悪影響、腸内細菌叢も変動する精神的ストレス
農業・食品産業技術総合研究機構は10月24日、精神的ストレスを負荷したマウスでは、小腸の内壁を覆う腸管上皮細胞の特定の糖鎖が減少することを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、農研機構畜産研究部門の高山喜晴上級研究員らの研究グループが、産業技術総合研究所、茨城大学、東京大学と共同で行ったもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
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消化管の機能が精神的ストレスにより異常をきたすことはよく知られている。これは、心理的な苦痛により引き起こされるストレスが、交感神経系や内分泌系を介して脳から腸に伝達され、腹痛・下痢・膨満感などの不快な反応を引き起こすため。逆に、腸管の受けた不快な感覚は脳に伝達され、さらにストレス症状を悪化させる。また、精神的ストレスは消化管の機能に悪影響をもたらすとともに、腸内細菌叢も変動させるが、そのメカニズムについてはよくわかっていない。このような脳と腸・腸内細菌の機能的な関係は「腸内細菌-腸-脳相関」と呼ばれている。
小腸の内壁を覆う腸管上皮細胞は、表面に糖鎖を発現している。この糖鎖は、腸内細菌や食品成分が腸管上皮細胞に付着する部位を提供している。糖鎖の分子構造は複雑であり、従来からの質量分析法などでは構造の解析が困難だった。
小腸下部の腸管上皮でのみフコシル化糖鎖が減少
今回の研究では、レクチンマイクロアレイ技術を用いて、精神的ストレスが腸管上皮細胞の糖鎖に与える影響を網羅的に解析。その結果、マウスにおいて腸管上皮細胞のフコース結合糖鎖(フコシル化糖鎖)が、精神的ストレス(社会的敗北ストレス)負荷により減少することが明らかになった。
精神的ストレス負荷によるフコシル化糖鎖の減少が観察されたのは、小腸下部の腸管上皮のみで、小腸上部や大腸の腸管上皮では、フコシル化糖鎖の減少が認められなかったという。このことは、腸管上皮細胞の糖鎖にフコースを付加する「フコース転移酵素」の遺伝子発現が、精神的ストレス負荷により、小腸下部で特異的に低下した結果からも裏付けられた。
精神的ストレスがさまざまな腸管機能や腸内細菌叢に変動をもたらす詳細なメカニズムは、明らかになっていない。糖鎖の末端に付加されるフコースは、腸管上皮細胞における腸内細菌の付着部位であるとともに、腸内細菌の栄養源としても利用されることが報告されており、フコシル化糖鎖の減少は腸内細菌叢の変動をもたらすと考えられる。今回の成果について、研究グループは、「精神的ストレスの負荷によって腸内細菌叢が変動する『腸内細菌-腸-脳相関』のメカニズムの解明につながると期待される」と述べている。