患者由来iPS細胞から分化誘導したドーパミン作動性ニューロンを用いて
慶應義塾大学は10月19日、遺伝性パーキンソン病患者由来iPS細胞から分化誘導したドーパミン作動性ニューロンを用いて、パーキンソン病治療につながることが期待される化合物を同定したと発表した。この研究は、同大医学部生理学教室の岡野栄之教授、神山淳准教授らとエーザイ株式会社を中心とする共同研究グループによるもの。研究成果は「Stem Cell Reports」に掲載されている。
2013年4月より慶應義塾大学医学部とエーザイは、「iPS細胞技術を用いた難治性神経疾患に対する革新的創薬プロジェクト」を開始し、同大が有するiPS細胞および関連技術とエーザイの創薬技術を駆使し、産学連携での創薬開発プロジェクトを進めてきた。
研究では、パーキンソン病患者由来iPS細胞を用いて、パーキンソン病の患者において障害されると考えられているドーパミン作動性ニューロンを効率的かつ簡便に作製し、創薬スクリーニングを実施できる実験系を構築。同大が保有する1,000種類以上からなる既存薬ライブラリーを用いて、パーキンソン病患者由来ドーパミン作動性ニューロンに見られる異常を減弱させる化合物を探索した。
T型カルシウムチャネル阻害作用を有する化合物に細胞死の抑制効果
研究では2名の遺伝性パーキンソン病(PARK2)患者由来のiPS細胞から誘導した神経前駆細胞を利用し、ドーパミン作動性ニューロンを効率的に作製。この患者由来ドーパミン作動性神経細胞群では、健常者由来神経細胞群に比べて突起長の短縮、酸化ストレスおよび神経細胞死の増大が観察された。これらの異常は、健常者由来iPS細胞に人工的にPARK2変異を組み込んだPARK2欠損iPS細胞由来ドーパミン作動性ニューロンでも観察されることが明らかとなった。また、患者由来ドーパミン作動性ニューロンが、ミトコンドリア中の電子伝達系を阻害する薬剤に高い感受性を示したことから、このストレスに対する脆弱性を指標として、既存薬ライブラリーを評価した。その結果、ストレスで誘発された神経細胞死を抑制する複数の化合物を同定。ヒットした化合物を精査した結果、T型カルシウムチャネル阻害作用を有する化合物に細胞死抑制効果があることがわかり、さらに、この化合物はPARK2とは異なる遺伝子異常を有するパーキンソン病(PARK6)患者由来ドーパミン作動性ニューロンを用いた検討でも同様の細胞死抑制効果を示した。
さらに詳細な解析を行い、PARK2患者由来ドーパミン作動性ニューロンでは、T型カルシウムチャネルの発現が上昇することを解明。また、T型カルシウムチャネルによるカルシウム流入を阻害することで、パーキンソン病患者由来ドーパミン作動性ニューロンの細胞死を抑制できることが明らかとなった。これらの成果から、患者由来iPS細胞を活用することで臨床像をより反映した病態モデル構築が可能であり、さらに既存薬ライブラリーと組み合わせることで、治療薬のスクリーニングにおいても有効であることが示された。
研究グループは「この手法により病態解明が進むことでパーキンソン病の根本的な治療法開発への応用に結びつくことが期待される」と述べており、今後は得られた知見を発展させ、神経細胞とグリア細胞の共培養など、より脳内環境に近い実験系を用いて、T型カルシウムチャネルのパーキンソン病治療標的としての妥当性を検証していくとしている。
▼関連リンク
・エーザイ株式会社 ニュースリリース