ドパミン受容体に作用する薬剤が主流の統合失調症
徳島大学は10月18日、統合失調症治療薬創出に向け、D-アミノ酸酸化酵素に高い阻害活性を示す化合物として「ハロゲン化チオフェン酸」を見出し、チオフェン化合物によるD-アミノ酸酸化酵素阻害機構を解明したと発表した。この研究は、同大先端酵素学研究所・病態システム酵素学分野の加藤有介准教授、福井清教授らが、Johns Hopkins大学と共同で行ったもの。
画像はリリースより
統合失調症は100人に1人の割合で発症する精神疾患だが、発症メカニズムの詳細はこれまで明らかになっていない。治療法としては主に薬剤を用いた方法が用いられるが、これまでの治療薬は神経細胞のドパミン受容体に作用するものが主流だ。
一方、多くの統合失調症がグルタミン酸受容体の機能異常による発症と考えられているにも関わらず、グルタミン酸受容体の働きに作用する治療薬はこれまでほとんど知られていない。特に、治療抵抗性統合失調症と呼ばれる難治性の統合失調症では、既存の治療薬がグルタミン酸受容体の働きにほとんど影響を及ぼさないことから、治療が困難な可能性がある。
統合失調症患者脳内で不足するD-アミノ酸
グルタミン酸受容体の働きは、D-アミノ酸と呼ばれる特殊なアミノ酸により活性化されることがわかっている。ヒトの身体を構成する主要なアミノ酸はL-アミノ酸であり、D-アミノ酸とは互いを鏡に映した構造をしている。つまり、身体を構成するアミノ酸を鏡で映した形をしたアミノ酸が、ヒトの神経活動を支えていることになる。このD-アミノ酸は、脳内でD-アミノ酸を選択的に酸化する酵素(D-アミノ酸酸化酵素)により分解される。特に、統合失調症患者の脳内ではD-アミノ酸が不足していることが報告されている。
そこで研究グループは、D-アミノ酸酸化酵素をブロックする阻害剤を新たに探索し、高い阻害活性を示す化合物「ハロゲン化チオフェン酸」を見つけることに成功。さらに、X線結晶構造解析と計算科学によりハロゲン化チオフェン酸がこれまで知られているD-アミノ酸酸化酵素の阻害剤とは異なり、D-アミノ酸酸化酵素のチロシン残基との疎水相互作用などにより高い親和性を示すことを突き止めたという。
さらに、さまざまなチオフェン化合物を合成し、その薬効を生化学的に検討したところ、チオフェンの基本骨格から枝分かれした側鎖が大きなものは、薬効が低下することが判明。これは、他の多くのD-アミノ酸酸化酵素の阻害剤では大きな側鎖を持つ阻害剤が高い薬効を示すということと、対照的だという。さらに、非チオフェン系の阻害剤がD-アミノ酸酸化酵素とどのような相互作用を示すかを計算科学で検証したところ、前述のチロシン残基との相互作用が非常に弱いことが示された。このことは、これまでに報告された結晶構造の結果を支持するものであったという。
今回D-アミノ酸酸化酵素をブロックする新しい仕組みが解明されたことは、今後の薬剤化合物の開発のために大きな意義がある、と研究グループは述べている。
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・徳島大学 研究成果