脳では神経細胞の分化などに作用するPRMT1
筑波大学は10月16日、心筋細胞におけるアルギニンメチル化酵素PRMT1の欠損が、若齢期の拡張型心筋症の要因となることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大生存ダイナミクス研究センター(TARA)の深水昭吉教授らの研究グループによるもの。研究成果は「iScience」に掲載された。
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タンパク質のアルギニンメチル化は翻訳後修飾のひとつであり、生体内のタンパク質の機能を変換させ、広範な生命現象に関与している。研究グループは、PRMT1がこの反応を担う主要な酵素として、脳では神経細胞の分化に、血管では内皮細胞の機能を制御して血管形成に作用することを明らかにしてきた。
一方、心臓は全身に血液を送り出すポンプとしての重要な役割を担い、その収縮力が著しく低下すると心不全の状態となり、重篤な場合は死に至る危険性がある。これまでに、ヒトの心不全患者や心不全モデルの動物の心臓において、タンパク質の翻訳後修飾のひとつであるアルギニンメチル化を触媒する酵素であるPRMT1の発現量が変化することが報告されていた。しかし、PRMT1の心臓における機能については明らかになっていなかった。
PRMT1遺伝子欠損マウスで拡張型心筋症によく似た特徴
今回の研究では、心筋細胞特異的にPRMT1遺伝子を欠損したマウス(PRMT1-ckOマウス)を作成し、心機能の解析を行った。このマウスは、正常に生まれてくるが、生後60日以内(若齢期)に死亡することがわかったという。PRMT1-ckOマウスの心臓の機能と形態について調べたところ、成長に伴って心収縮力が著しく低下し、心室の内腔が拡大するなど、拡張型心筋症によく似た特徴を示すことが判明した。
また、この心臓における遺伝子発現パターンを網羅的に解析したところ、拡張型心筋症に関連する遺伝子の転写が変動していることが判明するとともに、多くの遺伝子の選択的スプライシングに異常があった。さらに詳細な遺伝子発現パターンを解析した結果、これまで心臓において報告されていなかった新たな選択的スプライシングの変化を見出したという。これらの結果は、アルギニンメチル化酵素であるPRMT1が心機能の維持に必須なことを示しており、PRMT1の欠損が拡張型心筋症の発症に寄与することを示唆するものだとしている。
近年、ヒトにおいても拡張型心筋症に選択的スプライシングの異常が関与することが報告されているが、心臓における選択的スプライシングの制御機構の解明は発展途上だ。今回の研究により開発したPRMT1-ckOは、この仕組みを解明するための有用なツールになると考えられるという。PRMT1がどのように選択的スプライシングを制御するのか、また選択的スプライシングの異常が心臓にどのような影響を与えるのかを調べることで、拡張型心筋症の発症メカニズムの理解につながる、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース