動物個体内で網羅的にがん遺伝子を探索出来る新技術を活用
大阪大学は10月16日、動物個体内で網羅的にがん遺伝子を探索出来る新技術を用いてスクリーニングを行い、脂肪性肝疾患からの肝がん発症にHippo経路の構成因子「Sav1」が重要な役割を果たすことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の小玉尚宏助教、竹原徹郎教授(消化器内科学)、米MDアンダーソンがんセンターのニール・コープランド(Neal Copeland)教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America」に公開された。
画像はリリースより
がんは遺伝子変異による病気であるという考え方に基づき、昨今、多数例の肝がんを対象とした、がんゲノムシークエンス解析が世界的なプロジェクトとして行われてきた。その結果、高頻度に変異が認められ肝発がんに寄与していると考えられる遺伝子が複数同定されたが、未だその多くは創薬化が困難な状況だ。一方、低頻度に変異が認められた遺伝子も多数同定されたが、統計学的手法ではそれらの意義を検証することができなかった。
Sav1とPten遺伝子の発現低下で極めて予後悪く
研究グループは、トランスポゾンという「動く遺伝子」が、肝臓の各細胞内でゲノム上を多数ランダムに飛び回るマウスを作製。このトランスポゾンは変異原となるように遺伝子改変されているため、挿入先の遺伝子に変異が生じ、その結果がん化が促進される。発症したがんのトランスポゾン挿入部位を次世代シークエンサーで網羅的に解読することで、がんの発症に寄与した遺伝子変異をスクリーニングすることが可能となるという。
今回は、脂肪性肝疾患を発症する肝特異的Pten欠損マウスモデルに対してこの手法を用いることで、脂肪性肝疾患からの肝がん発症に寄与した遺伝子を網羅的に同定することに成功。また、これらのがん遺伝子候補の中で最も高頻度に変異を生じたHippo経路の構成因子であるSav1遺伝子に着目し、遺伝子改変マウスを用いた検討を実施したところ、Hippo経路の制御異常が、Pten欠損により生じた脂肪肝炎の進展や肝がんの発症を促進していることが明らかになったという。また、非ウイルス性肝がんのヒト臨床データを用いた検討から、Sav1とPten遺伝子の両者の発現が低下したがんを有する患者群は極めて予後が悪いことを突き止めたとしている。
今回の研究成果により、これまで不明な点の多かった脂肪肝からの肝がん発症メカニズムが明らかとなり、それらを標的とした新たな治療法の開発が期待されるという。中でも、今回その重要性が明らかとなったHippo経路は、有力な治療標的となる可能性が期待される、と研究グループは述べている。
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