急速に死に至ることが多い大動脈疾患
国立がん研究センターは10月15日、魚をほとんど食べない人で大動脈疾患(大動脈解離・大動脈瘤)による死亡が増加することを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、国がん社会と健康研究センターの井上真奈美部長、筑波大学医学医療系の山岸良匡准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Clinical Nutrition」オンライン版に公開されている。
画像はリリースより
大動脈疾患は、かつては日本での死亡率は高くなかったが、高齢化に伴って近年やや増加している。大動脈瘤が破裂、解離すると、医療が進んだ現代でも急速に死に至ることが多く、予防が重要だ。同疾患は主に動脈硬化が基盤として生じることから、心筋梗塞と同様に魚に予防効果があると考えられていた。しかし、がんや脳卒中などに比べると症例が少なく、大規模コホート研究であっても単独での検討が困難で、科学的エビデンスはほとんどなかった。
大動脈解離で死亡するリスクが2.5倍、大動脈瘤で2.0倍
研究グループは、日本の8つの大規模コホート研究から36万人以上を統合したプール解析を行い、日本人における魚摂取頻度と大動脈疾患死亡リスクとの関連を分析した。同プール解析に参加したのは、国立がん研究センターによる多目的コホート研究のJPHC-I(4万7,753人)とJPHC-II(5万9,502人)、JACC研究(9万0,791人)、宮城県コホート研究(4万2,151人)、大崎国保コホート研究(4万3,635人)、三府県宮城コホート研究(2万4,038人)、三府県愛知コホート研究(2万8,098人)、三府県大阪コホート研究(3万0,080人)。それぞれのコホートで使用している食習慣アンケート調査結果から、魚摂取頻度を、ほとんど食べない、月1~2回、週1~2回、週3~4回、ほとんど毎日の5つの群に分けた。循環器疾患の主なリスク要因を統計学的に調整した上で、ほとんど食べない群に対する他の群の大動脈疾患死亡リスクを算出し、その後、全てのコホートの結果を統合した。
その結果、魚を週1~2回食べる群と比べ、ほとんど食べない群では、大動脈解離で死亡するリスクが2.5(95%信頼区間1.1-5.5)倍、大動脈瘤で2.0(同0.9-2.1)倍、これらをあわせた大動脈疾患全体では1.9(同1.1-3.3)倍高くなった。一方、月に1~2回食べる群では、魚を週1~2回食べる群と比べて大動脈解離で死亡するリスクの上昇は見られなかったが、大動脈瘤で1.9(同0.9-4.0)倍とややリスクが上昇する傾向が見られた。また、週3~4回食べる群、ほとんど毎日食べる群では、リスクの大きさは変わらなかったという。
今回の研究では、魚をほとんど食べないような非常に摂取頻度が少ない場合に、大動脈疾患で死亡するリスクが上がり、魚を摂取する機会が少なくとも月1~2回あれば、大動脈疾患で死亡するリスクは高くならないことが判明した。このことから、魚の摂取が極端に少なくならないことが大動脈疾患死亡を予防するために重要だと考えられる。なお、魚の高摂取は心筋梗塞のリスクを低下させることがわかっているため、摂取が極端に少なくならないよう気をつけるだけでなく、より多く摂取していくことが循環器疾患予防につながると考えられる。
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・国立がん研究センター プレスリリース